労働新聞 2004年2月15日号

映画紹介 「この世の外へ クラブ進駐軍」
脚本・監督 阪本 順治
米軍占領下の若者たち描く

 時代に敏感な映画人にとって、今、「戦争」は避けて通れないテーマといえよう。この作品は、米軍占領下の日本のジャズマンたちの青春を描いたものだ。どんな時代でもたくましく生きる若者たちの姿を温かく描くと同時に、戦争が社会や人びとを深く傷つけることを静かに訴えている。

  *  *  *

 広岡(萩原聖人)はフィリピンのジャングルで敗戦を迎えた。復員した広岡は、軍楽隊時代の先輩・平山(松岡俊介)と再会し、「ラッキーストライカーズ」という名のジャズバンドを結成する。敗戦から2年後、彼らはジム軍曹(ピーター・ムラン)がいる米軍クラブで演奏していた。当時、日本人は米占領軍のことを進駐軍と呼んでいた。
 メンバーの5人はそれぞれに戦争の傷跡を背負って生きている。ドラムの池島(オダギリジョー)は長崎で被爆した母と妹に仕送りし、トランペットの浅川(MITCH)はヒロポン中毒だ。ピアノの大野(村上淳)は、生き別れになった弟を捜している。共産党員の兄をもつウッドベースの平山は、公安警察の監視の目を意識していた。
 メンバーは、敵国であった米兵相手に演奏することに、複雑な思いを抱いている。ある日、広岡はわざとジムを怒らせてしまう。契約を打ち切られたバンドはバラバラになっていく。そして、朝鮮戦争が勃発した…。

  *  *  *

 ラッキーストライクという米国のタバコは、敵国日本をやっつけるという意味をこめて日の丸をデザインした、いわくつきのタバコだ。そんな名前をつけたバンドを登場させて、占領軍、労働者、闇市、浮浪児、ヒロポン、レッドパージ…当時の社会を巧みに織り込んで、映画は進行していく。闇市や復興途上の町並みがリアルに再現され、時代の雰囲気、人びとの生活感が躍動感をもって表現されている。
 阪本監督は戦争によって深く傷ついている米兵の姿も描く。米兵ラッセルは弟を殺した日本人を憎んでいたが、一方で人を殺した罪悪感にさいなまれている。朝鮮戦争に行くことが怖くて、自殺をはかろうとする米兵。白人よりも先に戦場に立たされる黒人兵たち。
 敵も味方も同じように、人殺しは怖いし、戦争に行きたくない、という一般兵士たちの心情を描き出していく。そして、ジャズを通して、米国人と日本人が理解しあうことを描く。「武器よりも楽器なんだ」という台詞は、現在の世界に向けられたメッセージでもある。人間は人と人をつなぐ手段として、数々の道具を生み出してきたのであり、楽器もその一つなのだ。  ところで、「この世の外へ」という題名は、難解だ。この世は自由も民主主義もない社会だ。そんな社会とは違う世界への憧憬、戦争のない平和な世界への願いが込められているのだろうか。
 最後にこの映画の見どころを紹介したい。一つはジムを演じる英国の名優、ピーター・ムランの渋い演技と存在感だ。彼はこの脚本を読んで、出演を快諾したという。映画も、人間がつくり出した人の心をつなぐ道具の一つといえよう。もう一つは、「モナリザ」「センチメンタル・ジャーニー」「ダニーボーイ」など、ジャズの名曲がふんだんに流れることだ。若者から年配者まで楽しめる映画に仕上がっている。 (U)

www.konoyo.jp
全国の映画館で上映中


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2004