労働新聞 2003年12月15日号 通信・投稿

市町村合併−−ある町の風景
住民運動が各所で活発化
「地方制度改革」に踊る人びと

塩見 篤

 私の県ではほとんどの市町村が、任意か法定かはあれ「合併協議会」に参加している。仮に、すべての協議会が自治体合併にいたるとすれば、自治体数が4分の1に激減するという異例とも呼べる状況が生まれている。
 政府の「地方制度改革」の笛、太鼓に踊らされて、県知事はこの合併問題には異常な「熱意」を示している。執拗(しつよう)なまでのごり押しの熱意。 例えば、県の重要な基幹産業である第1次産業、その振興策などとなると、通り一遍の施策でごまかし、およそ独自施策など打たず、やりもやれもしない空文句を唱えている県知事だが、合併問題ではがぜんようすが異なるのである。
 そんな次第なので、県のつくったガイドラインにそって堂々と「押しつけ合併」が横行している。ご多分に漏れず「はじめに合併ありき」の合併劇なので、肝心の21世紀のその地域の町づくりをどう進めるのかとか、住民とともにある「地方自治の本来の姿」などそっちのけで、合併協議が進んでいる。
 面白いというか、特徴的なのは、日ごろ町づくりなどにほとんど熱心でない町議会や、ろくに勉強もせず凡々とやっている首長のいるところが、合併を進めようと積極的である。
 ところで合併には必ず市町村のマスタープランとなる「市町村建設計画」をつくらなければならないことになっている。その内容によって、合併後の財政措置が決められる。しかし日ごろ町づくりなどということを、真剣に考えていない町長や議員さんが、やおら「建設計画」などといわれても、案が浮かぶわけではない。
 地域の住民のために、またこれからの町づくりのために、その手段として「合併するかどうか」があるのが本来の姿だが、合併が目的になっているので、合併してどんな町を建設するのかといわれても、町議さんたちはまったく困惑してしまうのである。滑稽(こっけい)といえば滑稽な事態だが、ことは住民の生活にとって最も身近なところの自治体にかかわることなので深刻な事態なのである。
 困った協議会は、かくして町の建設計画を「外注」する。○○総研、○○研究所などの大手銀行のシンクタンクに、建設計画をいわば「丸投げ」するのである! 合併問題は大手シンクタンクにとってまたとない金もうけの機会となっている。これが、県下で繰り広げられている合併の風景である。
 そんな協議会だから、議員の身分の問題となると、がせん色めき立って活発な論議が展開される。合併賛成で淡々と進んできた協議も、「定数特例」となると自分たちの首が切られるわけで、それはもう人ごとではなく、町議さんたちはやおら異議を唱え始めたのである。大いに紛糾し始めた。
 しかし、ことはすでに遅すぎ、すっかり外堀を埋められてしまっているので、「合併後にはこれまでの町に地域組織をつくり議員さんたちはその組織に入る」などという「名案」(?)を持ってこられると、抵抗の力も道理が弱く、ブツブツ言いながらも、仕方ないかで沈黙してしまった。
 しかし、動あれば、反動あり。世の中、無理が通れば、道理も反撃を開始する。合併に賛成・反対の住民運動が各所できわめて活発に展開され始めた。中には私から見て、エゴむき出しのように見える運動もあるが、それでさえ、これからの町づくりをどうするかを真剣に考えての運動で、住民が立ち上がり地方自治に参加する意味で、すばらしいことである。皮肉にも、知事の狙いは、ここにきて確実に住民を目覚めさせ、立ち上がらせている。
 12月の町議会は、合併問題をめぐる「住民投票条例」の発議があちこちの町議会でめじろおしである。中には、新市の名前さえ決定していた合併協議会からの離脱も始まっている。地方制度を大きく変更し、コストを切り下げようとする「小泉改革」は、底辺の草の根の住民から反撃を受けつつある。


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