労働新聞 2003年12月5日号 通信・投稿

イラクでの日本人殺害に思う
米軍の手先と化した外交官

石本 美佐子

 イラク北部のティクリートで、2人の日本人外交官が射殺された。マスコミでは、「外交官としての崇高(すうこう)な死」をたたえる論調が目立つ。同時に、日本大使館を守るために自衛隊の派遣が必要だという論調が勢いづいている。このことにキナ臭さを感じるのは私だけではあるまい。
 この事件の真相はまだ定かではないが、2人がイラク国内でどのような活動をしていたのかということについて、大きな疑問が生じる。奥参事官はもともと駐英国大使館員であるが、フセイン政権崩壊後、連合国暫定当局(CPA)の前身に当たる復興人道支援室(ORHA)に出向している。
 奥参事官は外務省のホームページに掲載していた「イラク便り」の中で、自分の任務について「CPAを通じた人的協力に参画中」と紹介している。
 また、当日は米軍の要請を受けて、米軍の民生部門が主催するイラク北部「復興」支援会議に出席するためにティクリートに向かっていた。
 彼らの活動は米英占領軍とともにあったことは明白だ。反米闘争を強めるイラク民衆からは、日本は英米軍と一体の存在として見られるのも当然のことだ。
 CPAは米英主導の軍事占領機構である。日本の外交官がこうした機構に参画すること自体、本来の任務を逸脱してはいないのか。外交官がおそまつな外交員、米国のご用聞きになり下がっている。
 また、日本大使館は3月8日にバクダッドを撤退しており、日本の独自外交網はイラクには存在していない。こうした状況にあるにもかかわらず、小泉首相が今さら「国益」を振りかざすことは、笑止千万だ。
 井ノ上三等書記官はイラク戦争直前に、「人間の盾」としてバグダッドに残っていた日本人に撤退のための説得工作をしたそうだ。その時、井ノ上氏は「私もこの戦争はおかしいと思う。もっと若くて、こういう立場でなければ自分も『盾』になったかもしれない」と理解を寄せたという。井ノ上氏が勇気を出してその思いを貫くことができれば、悲劇に巻き込まれることはなかっただろう。
 この事件を口実として、自衛隊派兵に向けた世論操作が行われようとしている。米国の侵略戦争に日本人を動員しようとする政府の動きに、警戒が必要だ。


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