労働新聞 2003年10月25日号 通信・投稿

会社は「沈みかけた船」

経営の実権握る銀行
ボーナスは20分の1、給料12%カット

限界まできたリストラ
鉄の値上がり 中小企業を直撃

鉄工所労働者 村井 正一

 私が働いている会社は、中堅の鉄工会社です。中堅といっても広く名の知れた会社で、橋梁、ビル、鉄道建設と幅広く手がけてきました。この会社が今、まさに沈みかけた船のような状態です。
 10月17日の朝日新聞に「中国需要で鉄値上がり」という記事がありました。読んでいただければ、私のこれからの話も理解していただけると思います。記事の通り、中国の鉄需要の急増で日本国内の鋼材価格が値上がりしています。1年前はトン当たり3万3000円だったものが、今は4万円台になりました。
 この鉄の値上がりで、新日鉄など鉄の素材を販売している一部の大企業はボロもうけですが、私たちの会社のように鉄を加工して橋やビルを建設する業者にとっては死活問題です。鉄の値上がり分を販売価格に転嫁できればよいのですが、このデフレ下で、それをすれば他社に負け、仕事がこなくなります。それでなくても、公共事業の分野では国土交通省は価格をたたきにたたいて中小企業をいじめています。
 デフレ不況下で、同業の中小企業がバタバタとつぶれるのを見てきました。私の会社も生き残りをはかるために、ビル建設から撤退するなど事業縮小し、協力会社と呼んでいる下請けを整理しました。
 それでも赤字は続き、今度は労働者が減らされ、給料とボーナスがカットされてきました。ボーナスはいちばん多かった時と比べて、今は20分の1です。11月からはさらに給料が12%カットされるという、ひどい状況です。
 こういう状態がここ何年も続いてきたのです。リストラはもう限界というところに新たに鉄の値上がりという事態になり、会社はあと何カ月もつかという状態に追い込まれたのです。今月の下請けの支払いと、従業員の給料が出るのだろうか。この先は銀行の腹ひとつです。社長は雇われで、会社経営の実権は銀行が握っているからです。

■技術者が辞めていく

 私のいる会社には、かつて北海道や九州の炭坑で働き、閉山で再就職してきた人が多くいます。会社は産業構造の転換で石炭産業から追われた人たちの受け皿にもなっていました。職場でも、同じ高校の出身だという仲間同士もいて、家族的な雰囲気もあります。産業構造の転換で石炭から鉄に移った人たちが、こんどは鉄から追われるという、何ともやりきれない思いです。
 今、会社では歯が抜けていくように辞めていく人が増えています。しかも手にしっかりした技術をもっている人が辞めています。沈みかけた船に乗っているよりも、自分の技術を生かして新たな職場へ、という気持ちも分からないではありません。
 正直に言って、私も迷っています。会社が倒産となれば、退職金が保証されるわけではありませんし、こんな時代にすぐに次の仕事が見つかるとも考えられません。でも、20年以上もこの会社にいて、ここまでがんばってきたという労働者としての誇りもありますし、仲間がいる会社にもそれなりに愛着があります。
 ここまで会社が追いつめられたのは、直接は鉄の値上がりということですが、根底には政府の政策があります。私の会社は公共事業が大部分でした。それが、公共事業が悪者にされてから仕事が急減。建設業が苦しんで、倒産していくのもこのためです。素材は値上がりしても価格に転嫁できないどころか、さらにたたかれるのです。その先陣をきっているのが国土交通省です。この国で、いったいだれが責任をとってくれるのでしょうか。


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