労働新聞 2003年10月15日号 通信・投稿

書籍紹介

山口 敦雄著
「りそなの会計士はなぜ死んだか」
小泉改革に翻弄(ほんろう)され
倒れた労働者

 日本の4大監査法人の1つである朝日監査法人に所属する会計士・平田聡さん(38歳)が03年4月24日、自宅マンションから飛び降りて亡くなった。彼は、りそな銀行を監査するチームの現場責任者だった。
 筆者の山口氏は「エコノミスト」誌の記者である。5月15日、「平田さんの死を取り上げてほしい」とのメールを受けて、取材を開始した。その直後の17日、りそなの破たん、実質国有化が発表され、「りそなショック」が走った。
 朝日監査法人と新日本監査法人がりそなを監査していたが、朝日は4月22日にりそなの監査を降りることを決定していた。その決定の2日後に、平田さんは死んだ。山口氏は平田さんの自死が、りそなショックとかかわりがあると直感し、平田さんがなぜ死んだのかを追う。
 この本には、山口氏の取材活動が順を追って記されている。1人の労働者を死に追いやった背景を探る作業は、監査法人側の十分な協力を得られないなど、困難さに直面する。しかし、平田さんの生い立ちや経歴、仕事ぶりなどを丁寧に調べる中で、彼がおかれた状況がしだいに浮かび上がってくる。そして、平田さんがりそなを破たんさせないために、尽力していた事実をつきとめる。
 平田さんは遺書も残しておらず、その死の突然さから他殺説もウワサされた。しかし、山口氏は、「極度の疲労と監査法人上層部の決定がもたらした激しい心の葛藤の末の自殺だった」と結論づけている。
 そして、山口氏はこの事件の「もう1つの見方」として、02年10月の金融再生プログラム(竹中プラン)を、平田さんを自死に追いつめた重要な背景として取り上げている。
 「銀行の国有化、外資への売却」に執念を燃やす竹中大臣の指示で、日本公認会計士協会が監査法人に圧力をかけ、新日本監査法人がりそな破たんの「引き金をひかされた」という見方だ。日本公認会計士協会の奥山会長は竹中プランを作成した「金融分野緊急対応戦略プロジェクトチーム」のメンバーであり、竹中大臣のブレーンでもある。
 小泉や竹中は「つぶれるべきはつぶれてかまわない」と豪語し、国民に痛みを押し付けている。山口氏は、平田さんがこうした視点とは正反対の視点で行動していたとして、共感を寄せている。そして、小泉・竹中の経済政策を強く批判的し、「平田さんは、いわば竹中氏の掌の上で悩み、戦い、そして亡くなった」と追悼している。
  *  *  *
 この本では、大銀行と監査法人のゆ着の構造の下で銀行が保護され、ボロもうけしてきた事実には触れられていない。しかし、その構造が今、多国籍企業が財界の主導権をとったことによって、急速に変更されつつある現実が伝わってくる。
 国有化されたりそなは、財務改善のためにさらに厳しい貸しはがし、貸しえぐりを強めている。その過程で中小企業の倒産、失業が増大する。こうして健全化したりそなは、長銀と同じようにたった10億円で外資に売られるのだろうか。竹中の売国奴ぶりに、改めて怒りが込み上げてくる。  (Y)

発行 毎日新聞社
本体価格 1300円


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