労働新聞 2003年10月5日号 通信・投稿

書籍紹介
松岡 環 編著
南京戦 切りさかれた受難者の魂
被害者120人の証言
南京大虐殺を証明した労作

 私たち日本人は、南京大虐殺について、どのくらいの真実を知っているだろうか。今も続く中国民衆の怒りと悲しみを、どのくらい理解しているだろうか。
 1937年12月13日、日本軍の侵攻によって中国の首都南京は陥落した。日本軍は占領中、抵抗する人びとや逃げまどう住民を捕まえて、食料を奪い、強制労働させ、虐殺した。中国側の調査によれば、犠牲者の数は30万人にのぼる。機関銃による一斉射撃、女性たちへの強姦(ごうかん)……史上最悪の戦争犯罪の1つとなった。
 この本は、被害者120人に実際に会って話を聞いたものを記録することによって、日本軍による南京大虐殺の事実を証明した労作である。証言は地区別に編集され、当時その地域で日本軍がどのような軍事行動をとり虐殺行為が行われたかが浮かび上がる。
 揚子江北側では「村に攻め込んだ日本兵に強姦され、その間生後数カ月の娘が焼き殺された」「日本兵は中国人を刺し、斬り殺し、犬に噛みつかせて喜んでいた」……。
 揚子江南側では「煤炭港で数百人が機関銃で掃射されるのを見た」「河面は死体でびっしり、中山埠頭で死体片づけをさせられた」「下関で数千人の人といっしょに私は機関銃掃射された」……。
 南京城内国際安全区(難民区)では「日本兵は難民区に入ってきて逃げ遅れた女性を強姦した」「祖父母は目の前で刺殺された」……。日本軍の残虐な犯罪行為が、生々しく伝わってくる。
 松岡氏は、日本人には会いたくないという人のところにも足を運んで貴重な証言を記録した。これらの証言の前には、軽薄な歴史わい曲者も反論の余地はないだろう。
  *  *  *
 この本を編著した松岡氏の一連の取り組みは、きわめて真摯(しんし)であり、その手法も納得いくものだ。彼女は昨年、南京大虐殺にかかわった元日本兵の証言を集めた本「南京戦・閉ざされた記憶を尋ねて」を出版している。加害者と被害者の声を総合して、歴史の真実に迫ろうという試みだ。
 その出版に際しては、数々の嫌がらせがあったと聞く。こうした反動勢力が勢いを盛り返しつつあるからこそ、侵略戦争の実態を正しく伝え、過去の政治の過ちを認識することが求められる。
 強姦されたある女性は「夫にも息子にも家族にも話していません。こんな忌まわしい話は、思い出したくもないのです。でも今の日本の情勢を見ていると、心配になって話すことを決心したのです」と語っている。
 性暴力の被害者の証言は痛ましい。強姦されて殺された人びとの無念さ。幼い年で強姦されたことが生涯のトラウマとなって、今も苦しんでいる人びと。彼女たちの悔しさや怒りや悲しみはだれにも理解されないまま、いやされることなく消えていかなくてはならないのか。こうした女性たちに18年間にわたり、寄り添い続けた松岡氏の熱意に学びたい。   (U)

発行 社会評論社 
本体価格 3800円


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