労働新聞 2003年10月5日号 通信・投稿

職場の上司は「お客様」?!
T社→△△物流→○○物流→派遣会社××→私
レンタルで労働者を搾取
派遣労働の驚くべき実態

派遣労働者 友部 孝夫

 全国の読者の皆さん、こんにちは。私は物流関係で働く、今年で50歳になる派遣労働者です。仕事はフォークリフトに乗って倉庫に入ってくる品物を捌(さば)いたり、出荷業務などをしています。
 皆さんは派遣労働者というのを知っていますか? いわば労働者をレンタルするわけですが、派遣であれ、正社員であれ労働者に違いはありませんから、法律上は「労働基準法」に定められた立場で働いていることになります。
 派遣労働者が増えているとはいっても、新しい雇用形態であり、全体から見れば特殊なケースではあります。ですから、正社員が正規の雇用形態であるとすれば、派遣労働者・パートタイマー・アルバイトなどは非正規労働と呼ばれています。やっている仕事はなんら変わらないのに、不正でもやっているような、または、主力の労働力ではないような印象を与えかねない呼び方ですね。
 労働者たるもの、いったん職場に入ったら自分がこの職場の「エース」なんだ! という気構えがなければ仕事などできるものではありません。そうした労働者のプライドはもっているものの、現実は厳しいものがあります。
 私と私に支払われる賃金の出どころ(派遣先の元締め)の間には、3つもの「関所」(中間にある会社)があって、1日当たり2万円で出発した賃金君は、長い旅をする間に1万円ほどにやせ細り、私のところにたどり着いているのです。
 賃金だけではなく、もっと多方面から見た派遣労働の実態をご紹介します。

■「不具合」労働者は交換

 派遣労働でほかの通常の職場と違う点は、労働者の権利獲得・地位向上を図ろうとするとき、普通の職場では「上司」といえば「交渉相手」あるいは「闘争対象」ですが、ここ(派遣先の会社)では、大前提として「お客さん」だということなのです。
 お客さんとは意見の交換は許されても、闘争などもってのほかということになります。横暴な「お客さん」によって、まわりの労働者が何人も事実上の首切りにあってきたのを見てきました。法律上は解雇ではありません、転勤です。
 サラリーマンに転勤や異動はつきもので、それでキャリアを積みだんだん出世するんじゃないか、とお考えの方もいるかもしれませんが、派遣労働者の転勤は、そうはいきません。運がよくても現状維持。多くの場合、1から新しい仕事を覚えなければなりませんから、新入社員から再スタートということになります。最悪のケースは事実上の解雇につながります。
 派遣労働者を入れるということは、レンタルで機械を導入するのと同じですから、「不具合」が生じれば「交換」される立場なのです。使用者にとっては業務を遂行する上での「処理」ですから、心の痛みもさしてありません。
 しかし、労働者にとってはそうはいきません。いちばん痛いのは当人ですが、交換されて入ってくる労働者にとっても気分のよいものではないのです。

■派遣は整理するのも自由

 実は、私がいまの現場に入ったのは、派遣先で「不必要」とらく印を押された派遣労働者をクビにするためでした。本人には手術のために入院している間の代用という名目でしたが、彼が復職しても実際上彼には仕事を与えず、結果として彼は居場所がなくなり、転勤か退職かと迫られ、数カ月後に退職を余儀なくされました。
 その数年後、新しい業務が導入されたとき、それまでその仕事をやっていた人員もいっしょに異動してきました。仕事といっしょに来た人は、私に業務を引き継いで「転勤」という形でほかに移っていきました。会社は彼の能力に不満があったということなのですが、能力の問題ならば訓練で解決できるわけですから、「私に三カ月彼を任せてほしい」と、私は職場の責任者に掛け合いましたが、「そんな時間はない!」とにべもありません。結局、彼も転勤し、その後、移った職場も辞めたそうです。使用者は最初からこの2人の労働者を整理したくて、そのために私は使われたことになります。
 普通の企業でも人員整理のために同じような手が使われると聞くこともあります。ただ、派遣労働の場合、相対的に労働者の側が弱いことと、表面上は通常の転勤や業務内容の変更という形で、実際には職場から労働者を追い出せるということなのです。解雇という荒っぽい手段は使わず、労働者の反撃も覚悟しなければならない事態を回避して、目的を達成できるわけです。非正規雇用労働者の厳しい現実の一端です。

■現代の人身売買

 さて、私のことですが、派遣労働法によれば派遣先に2年間在職すると、そこの会社に採用される権利が生まれるということをご存じでしょうか。私は、現在の職場に入って(派遣されて)6年ほどたちますが、そんな話はいっさいありませんでした。これは、法律上というか建前上、私は「派遣労働者」ではないというところにカラクリがあるのです。
 会社(派遣元)は形式的には業務請負として仕事をしているので、あくまで私は直接所属する会社の請負業務に就いていることになっています。
 派遣と業務請負、何が違うかというと、請負の場合、私への業務命令は所属する会社から出され、派遣先の管理職から直接私に仕事の指揮はできません。派遣の場合は、派遣先の職場の一員として、業務命令を受けることになります。私は1度も自分が所属する会社の上司から仕事の命令を受けたことはありませんでした。明確な脱法行為といえます。
 ところが、ジョークとしてなら座布団の1枚くらいあげられそうな話が最近ありました。
 ことの始まりは今年の6月、私の派遣先「○○物流」が、「あなたの所属している『××』があなたに給料を支払いきれなくなったので、うちの下請けに移籍しませんか」と言うのです。払い切れないほどの賃金をいつもらったかなと思う一方、話の順序が逆だと思い「会社に事情を聞きます」とだけ答え、すぐに社長に電話をしました。勝手に人の身をやり取りするな! と頭にきましたが、来るべきものが来たかという思いもありました。
 有限会社××は、○○物流に人を派遣しています。そして○○物流は、派遣されてきた人をさらに△△物流に派遣している会社です。△△物流は日本でも有数の電機メーカーの100%出資下請けで、金の出どころはこの電機メーカーになります。
 世界を相手に事業展開をしているこのT社は、21世紀の現代において、このような人身売買もどきの手段を使って巨大な利益を上げているのです。
 わが有限会社社長は「度重なる単価の切り下げで、収入よりも給料として支出するほうが高くなってしまった」と明細書などを見せて説明しましたから、赤字であることはどうやら本当のようです。中小企業は大変だ、とも思いますが、これは私にとって生活をかけた問題で、会社の心配をしている場合ではありません。その場は、社長の「給料は下げないように派遣先と交渉する。それがだめなら、このまま現在の給料は保証する」という約束を認め、引き下がりました。このときの会話はすべてテープにとってありますので、相手の出方を見ることにしました。
 9月に入って社長から「今の給料を保証されるなら会社を移ってくれますか」という電話がかかってきました。私は考えつつ「またお会いして決めます」と返答しました。考えたことというのは、私の本給は給料総体の8割程度で、いくつかの手当でなんとか食える金額に「調整」されています。ですから中身を確認しないといけない、と思ったわけです。
 社長の都合でまだ会う日は決まっていませんが、また小型のテープレコーダーを上着に隠して会社に行く予定です。私には中学生の子供と生後1年の猫をまだまだ養わなければならない義務があります。だから、今回は絶対に引きません。


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