労働新聞 2003年9月25日号 通信・投稿

新幹線は地域発展に不可欠?
九州新幹線が来春一部開業
地元自治体には負担がズシリ

岡田 輝義

 来春の九州新幹線の1部開業(新八代―西鹿児島「鹿児島中央」間)の準備が着々と進んでいます。先日、車輌基地のある鹿児島県川内市へ九州新幹線用の車輌「つばめ」が海上と陸上輸送で運び込まれ、地元のテレビニュースなどで大きく報道されました。
 ここ数年、地元財界を中心に新幹線の早期開通へ向けてさまざまな世論づくりが行われてきました。地域発展のためには不可欠ということで、官民あげて総決起大会なども開かれてきました。
 新八代―西鹿児島間が開業すれば、次は博多―新八代間を早期に完成させ、全線開通だとのかけ声が声高に叫ばれています。すでに建設工事は八代以北も進み、いたるところで高架の線路の橋脚が林立し、町や村を切り裂いています。

並行在来線は第3セクターへ

 しかし、来年4月の1部開業にともなって並行在来線である鹿児島本線では、八代―川内間が第3セクターとしてJR九州から経営分離され、熊本、鹿児島両県、沿線自治体などで出資する「肥薩おれんじ鉄道」になってしまいます。
 東北新幹線や長野新幹線でも並行在来線の1部が第3セクターとなっています。営業係数の悪いところを切り取って、第3セクターにするのですから、乗客は確保できず、経営がうまくいくわけはありません。
 自治体財政が悪化する中、新駅の設置にも地元自治体の負担がズシリとのしかかり、開通後も、地域住民の通勤、通学などの「足」の確保のため、沿線自治体は負担を強いられ、地域にとっては「百害あって……」ではないでしょうか。

地元では不協和音

 つい先日、わが町でも新幹線早期開業を求める総決起大会なるものが開かれました。新駅の設置を求めて、周辺自治体を中心に設置期成会がつくられ、世論づくりがやられています。しかし、不協和音や公然たる不満も聞こえてきます。 新駅予定地から遠い隣町の人たちは、「駅設置の地元負担を市町村合併の『合併特例債』でやろうとしているという話があるが、利用もしない駅の負担を押しつけられるのは納得できない」と言っています。
 中心市街地から離れたところに新駅ができれば旧来の商店街はつぶれてしまうという心配が地元商店街の中に広くあり、新駅設置には反対という声が商店の人たちの多くの声です。
 しかも新幹線には、近接するより大きな都市(九州では福岡市一極集中がいちだんと進む)に買い物客などを吸い取られる「ストロー効果」という副作用もあります。地方都市はさらにさびれると思います。
 総決起集会といっても、自治体関係者のほかは、行政が、区長らを通じて割り当て動員した人たちや、顔を出さないとあとでどんな目にあわされるかと恐れて、参加者名簿に署名しに来る零細な建設業者の人たちなどが目立ちました。顔見知りの人が「いったいだれがもうかるのかね」とつぶやいていました。
 地元選出の国会議員らに、鉄道建設にかかわる企業からの多額の政治献金がなされているのが報道されていましたが、その国会議員の選挙前の地元引き締めにも集会が利用されているようでした。

「新幹線信仰」と利権構造 

 それでも整備新幹線の工事は止まらず、続いています。「中央との時間や距離を縮めないと地域は活性化しない」という「新幹線信仰」が根強く、また不況にあえぐ地域の建設業界などには、垂涎(すいぜん)の的であり続けます。
 利益の大半は大手ゼネコンの懐に入り、地元の零細業者の多くは、仕事をもらうため口利き料を払い、工事をもらえれば礼金を払い、その仲介で県会議員や国会議員が懐を潤す、その金で政治を買う。いつまでそんな利権構造が続くのでしょうか。


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