労働新聞 2003年9月5日号 通信・投稿

わが町のマンション・ラッシュ
踏みつぶされる零細工務店

高見 駿夫

 長期のデフレ経済が続き、勤労者の賃金が下がり続けているというのに、この市のマンション建設は首をかしげるばかりに盛んである。マンション・ラッシュといってよい様相が続いている。都市圏では、低価格なマンション建設はピークを過ぎ、売れ残りが急増しているというのに、当地は建設ラッシュなのである。いったいだれが買うのか不思議でならないと、日ごろから思っていた。
 確かに統計資料にもこの現象は現れていて、不動産業の売り上げが、当地では全国より飛び抜けて高い伸びの指数になっている。あそこにも建った、ここにも工事が始まった、どこそこの土地を大手業者が売買契約した等々、相次いでいる。
 そんな具合なので、当然あちこちで、住民のマンション建設反対運動が巻き起こっている。こうした運動に対処する上でたっぷりと経験を積んだ大手業者が乗り込んできて、いわば有無を言わせず巧妙に立ち振る舞って、結果としてはマンションが建ってしまう。切り崩しに保守系県議を巻き込み、住民をなだめたりだましたり、公民館建設に資金を出しますとか公園をつくりますとかなどのアメもばらまいている。
 反対運動の人びとは突然高層マンションが隣にできると聞いてビックリ、何とかならないかと交渉を始めるが、こちらは当然ながら素人で、押されてしまう。運動を担っている団体のアピールを聞く機会がいくつもあったが、裁判をやろうにも県内には経験をもった弁護士が不在で、県外の弁護士に頼まなければならない状況で、本当に大変である。一般的でない苦労が多い。
 ところで、そのマンションは売れているのか? 建設産業の労働組合の人と懇談していて、ようやく釈然とした。売れているのである、完売に次ぐ完売である。ただし、当地の大通りの市電に面した所のみ、ごく一部だけ。いくらか山手、大通りから離れたところのマンションはものの見事に売れ残っているのである。だからマンションの「好評販売中」という大きな垂れ幕が、いつまでもいつまでも夏の暑苦しい風にはためいている。
 そうするとどうなるか。大手の2次、3次の下請けになんとか入って、この不況の中ようやく仕事にありついたと喜んでいた職人さんたちや零細な工務店は、工事代金がもらえないのである。
 原材料の代金そこそこで、当然手間賃もろくに取れなくても、仕事がないよりは良いと思って、仕事を受けたものの、肝心の代金が支払われない。元請け企業は代金は払えないとは決して言わない。来月払う、いや3カ月後には必ず払うと、さんざん待たせたあげく、代金の1部を少しだけ支払うのである。
 職人さんたちは材料代は払わなくてはならない。資金繰りに窮した上で、事実上のただ働きのうえ、自分の家計に入れる金がまったくないという有り様なのである。
 建設産業の労働組合の皆さんは、それに対処する交渉におおわらわということだ。こうしたでデタラメがまかり通る業界の現状のうえにマンション・ラッシュが演じられているのだ。

産業再生機構の初仕事

 さらにどうなるか。売れないマンションをつくり続けていれば破たんは明らかである。マンション建設業者や手を出したゼネコンは膨大な負債を抱えこんでいるのはご承知の通り。そこに貸し出した銀行はこれまた膨大な不良債権を抱えている。だから、その銀行には、政府の膨大な公的資金が何度も投入されている。公的資金などというと聞こえがよいが、要するに国民の税金である。
 さらに加えて、この8月、鳴り物入りでつくられた「産業再生機構」が初仕事を開始した。再建の対象は、「ダイア建設」と熊本の「九州産業交通」である。このどちらも、マンション建設と開発で行き詰まった企業である。
 町づくりを破壊し、下請け業者を自殺に追い込み、国民の税金をたっぷりと吸い込み、なおもマンション建設が続く。実に不思議な光景である。


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