労働新聞 2003年8月5日号 文化

映画紹介「ホテル・ハイビスカス」
中江裕司・監督作品

平和願う沖縄パワー描く

 「夏休みに沖縄に行ってみたいけど、お金がなくて行けない」という人に、沖縄からお勧めの映画がやってきた。平和を尊ぶ人情、美しい海と空、情緒豊かな民謡を1度に楽しめる、とてもお得な作品だ。
  *  *  *
 主人公は小学3年生の仲宗根美恵子。ホテル・ハイビスカスと大きく書かれた古ぼけた建物が美恵子の家だ。くわえタバコで物知りのおばあ(平良とみ)、三線(さんしん)とビリヤードが得意な父ちゃん(照屋政雄)、バーで働く大黒柱の母ちゃん(余貴美子)。3人の子供たちはみんな肌の色が違う、インターナショナルな家族だ。
 映画は4つのパートに分かれていて、それぞれにタイトルがつけられている。
●フェンス
 ガキ大将の美恵子は、男の子を従えてガジュマルの木に宿る森の精霊キジムナーを探しに出かける。米軍基地の中には昔はガジュマルの木がたくさんあったと聞いて、立ち入り禁止の基地の中に入っていく。そこには、大きなガジュマルの木と家があり、1人のおばあがいた……。
●太陽(てぃーだ)母ちゃん
 母ちゃんは、自分の父親に会ってみたいというねぇねぇと米国へ行くことを計画する。しかし、恵美子を連れてはいけない。そこで、特賞=ペア米国旅行の大抽選会がにぎやかに始まった……。
●美恵子の大冒険
 米国旅行している母ちゃんから小包とハガキが届く。ハガキには母ちゃんから父ちゃんへのメッセージが書かれていた。でも父ちゃんはパイン畑の収穫に行って、2、3日は帰ってこない。美恵子は一刻も早く父ちゃんにハガキを届けようと、パイン畑を目指した。途中で出会った老人は、キジムナーを知っているという……。
●お盆どぅーい
 母ちゃんが米国から帰ってこないことをはやし立てる子供に美恵子は石を投げつけてしまう。いつもは怒らない父ちゃんが、「石を投げたり棒でたたいたりすることが、大きくなると戦争になる」と怒る。家を飛び出した美恵子は公園で、多恵子という子供に出会う。多恵子は「私はあんたのおばさんよ」と言った……。
  *  *  * 
 中江裕司監督は前作『ナビィの恋』(99年)でも、沖縄の人びとを温かく描いた。今回の作品では、沖縄で親から子へ受け継がれている「平和を願う心」が、ユーモラスなタッチで描かれている。
 美恵子は一夏の体験を通して、キジムナーや先祖の霊を身近に感じていく。「お盆」に現れた多恵子は、戦後直後の食料難で死んだ父親の妹なのだ。なぜ父ちゃんが戦争を嫌うのか、しだいに美恵子は理解していく。
 美恵子を演じた蔵下穂波は地元の小学生だ。そのバイタリティあふれる姿が、作品に活気を与えている。また、沖縄民謡の重鎮である登川誠仁、照屋政雄、大城美佐子らが出演。その存在感は得がたい。
 この作品は、新たな米軍基地建設問題で揺れている名護市で撮影された。映画に出てくる美しい海や自然を守っていかなくてはならないと思う。「平和の心」は、親から子に伝えるべき、もっとも大切な「文化」であると感じた。(U)
全国各地で上映中


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2003