労働新聞 2003年6月5日号 通信・投稿

上場台地の百姓から
その3
露地野菜を特産品にするぞ

佐賀・田畑百生

@田舎生活も大変
 家では、コメとミカンと露地野菜をつくってきました。しかし今の耕作面積では、コメもミカンもつくれば赤字になります。ですからコメは3反しかつくっていません。反あたり7俵できたとして20俵、そのうち半分は近所や親戚に配ってしまうので売る分はありません。だから商売になるようなつくり方はしていません。
 こんな時代ですから、カネにならない仕事はできない。田舎の生活も大変です。税金を払わなければいけないし、国民年金も上がる。確定申告したら、必要経費として120万円くらいかかっているのが分かった。国民年金が月1万3700円、農業者年金が月2万円、圃場整備償還金が年25万円、区会費、自動車税(トラクターもいれて4台分)等々です。どう計算しても、これではやっていけない。ときには、おやじとおふくろの年金毎月7万円も利用させてもらっている。ほかに農業経費、たまにはスナックで酒を飲むための交際費も、生きるための必要経費です。そういうのも含めると、養鶏場をクビになって、「ありがとうございました」なんて言ってきたが、本当は家計的にはきついんです。毎月5、6万円でも入金があったわけで、それが途絶えてしまった。そのぶん、生産で収入を上げないといけません。

@ミカン
 農産物は地産地消がいちばんです。まず、地元にまんべんなく出す。余るなら近くの都市・唐津に出す。その次に大都市・福岡にもっていく、こうして広げていく。外に出れば競争相手が増え、相手に打ち勝たねばならなくなります。
 しかし、農業ははじめから勝負は決まっています。特産地にはどぎゃんしてもかなわない。たとえば、ミカンは、静岡のミカンがやっぱりいちばんなんです。同時に出荷したら話にならない。正月ごろの早稲ミカンは愛媛ミカンが君臨している。他地域はかなわない。だから九州は、その前、10〜11月上旬ごろにやろうということで、極早稲みかんの6〜7割を占めているんです。生産者の努力もあるが、産地以上の努力はできない。逆立ちしたってできない。だから唐津・東松浦では、ハウスミカンは全国一の生産量で、約2割つくっています。
 農協がミカンを出荷するのに、農家から集めて出荷して東京などに運ぶのにキロ当たり60〜70円の経費がかかる。100円で売るとしたら、残りの40円から肥料などの生産経費を出さないといけない。下手するとマイナスになる。ミカンをつくればつくるほど赤字になる。
 自分も赤字が増えていきました。そこで、もう直販しかないなと始めました。農協が100円で売るなら自分も100円で売ろうと、知人の店などに直接持ち込みましたが、実際かなり難しかった。だれもが考えるのですが、町の真ん中で移動販売やるのがいちばん売れますが、そこまでやると労力かかって生産ができなくなります。福岡までなら片道1時間半以上、往復だけで半日かかる。生産して、運送して、その間に商いをしても、体がもたない。やっぱり世の中、うまくできていて、売るのはその専門にまかせてたほうがよいなと思いました。ミカンは、今年は「おもて年」で、ほっといてもたくさん花がつく。生産過剰が目にみえているので、農協が生産調整しており、自分のところは今年は生産していません。

@仲買
 今は、仲買は暮らしていくためにどうしても必要なのでやっています。極端にいえば、安く買いたたいて、スーパーに高く売る、ということです。これが、今の唯一の食いぶちになっています。今は終わりかけているイチゴとミカンです。これから先、注文がきているのはトマトとキュウリです。7月から8月にかけてのクソ暑いときに、高地の生産地からもってこれないかという問い合わせが販売店からきています。農業高校の同級生、知人が山の上にもいるので、そこから買い付けるつもりです。
 上場はまわりは生産地で、消費者は貧乏。隣の唐津は小さい町。人口がケタちがいの福岡なら、1時間半で行けるので、今は毎日、タイヤをすり減らして福岡に行っています。
 まず市場で主な野菜の相場を見ます。どのくらいの品物がどのくらいの値段で売れているか、何がよく売れているか。福岡は青果市場が1つしかないので、そこの独壇場です。だから相場はめちゃくちゃ。大阪などで少し下がると福岡では、バーンと下がる。乱高下が激しいので、仲買人もとまどってしまいます。相場変動がないように、安値・安定供給のために本来市場はあるのですが。そこで、青果市場を通さず、俺を通して、やる。流通革命とまではいわないが、産直の1つの形です。

@ゴボウ生産始める
 今年3月から、ゴボウ生産を始めました。夏になったら収穫します。今のところ、これを中心にもっていきたい。他の野菜はどこにでもありますが、ゴボウは競争しないでいいんです。古い仲買さんは、佐賀の上場はいいゴボウの産地だったというのを知っています。このことを再度アピールしたい。まだ採れないので「特産」と大声でいうのもなんですが。今は福岡の市場までもっていくほどの量がありませんが、ゴボウ組合に入って、仲間とも相談して、今年から各農家でもう少したくさんつくろうと運動しよるところです。
 上場は佐賀県の西の端ですから、冬は季節風の海風がまともにあたって、寒い。そのかわり、風と三方を海に囲まれていることで霜が年間に何日かしか降りない。この気候を生かした露地野菜をつくろうと。その筆頭がゴボウです。軌道にのせるためにはまだまだ時間がかかりますが、すこしずつ効果が出てきました。     (つづく)


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