労働新聞 2003年6月5日号 通信・投稿

ユーとミーのものがたり
−野球少年と娘盛りの子猫

不況でおやじはクビが危ない!

友部 孝夫

◆野球少年ユー

 わが家の息子ユーはことし中学生になり、小学6年生から始めた野球を続けるために、硬式野球の「ボーイズ・リーグ」に入団した。
 ユーはどうやら本気で将来プロ野球の選手になるつもりらしく、「あと6年すれば俺がプロになって(親を)楽させてやるから」などとかわいいことを言うようになった。ちなみに彼の進学希望はPL学園で、高校卒業でプロのスカウトが来なければ慶応大学に入りたいといっている。家の経済状態を彼はまったく理解することができていないようすである。慶応に入りたい理由は、大ファンの高橋ヨシノブの出身校だからという単純なもの。彼の高橋好きは相当なもので、日常生活は右利きなのに、バッティングだけは左打席で打ち、守備位置の希望はライト、サインボールと24番のTシャツを宝物のように大事にしている。
 ユーは現在、身長150センチだからこれから成長しても170センチのラインに届くかどうかも怪しい。現在のプロ野球で160センチ台選手といえばジャイアンツの宮崎選手(167センチ)など、少数ながらがんばっている。現役時代に安打製造機といわれ、2000本安打を記録したヤクルト・スワローズの若松監督も168センチだから、「やってやれない事はない」。しかし、これには相当の努力と素質が必要でユーにそれほどの根性や素質は今のところ見当たらないことは、素人の私でも分かる。私も世間の親と同じで、子供にやりたいことを、親のできる限りでさせてやりたいと思うだけなのだが…。
 恐ろしいことに、彼は本気(マジ)なのだ。

◆娘盛りのミー

 もう一人の登場人物(?)猫のミーは生後10カ月を過ぎ、人間でいえば17〜18歳の少女となり、春うららのこのごろ、ミョーに艶めかしい態度をとるようになった。
 それにしても今どきの猫は金がかかる。ミーは6種類のエサを交互に出してやらないと食事をしない。トイレの砂、正確には水洗便所に流せる紙の粒なのだが、これも金がかかる。私が子供のころの猫といえば「猫まんま」とよくいわれるように、ご飯にかつお節を混ぜてやればそれで十分だった。たまにマグロのフレークを混ぜてやるのがご馳走だったのだが。その上、間もなく彼女は避妊手術を受けることになる。それまでは外に出せない。外には性質(たち)の悪いオスの街猫がうろうろしていて、たちどころにミーはご懐妊となるであろう。猫に保険は効かないから、その資金はすで妻によって私の懐から確保されている。実は私は妻から9万円の借金をしており、毎月1年間自動引き落としで1万円ずつ、給与入金したばかりの口座から差し引かれる仕組みになっていて、残った金を手術代に当てる計画なのだ。こうでもしないと、借金も猫の手術もできない。
 ユーはこの事情など知っちゃいないのだ。それでPLだぁ? 慶応だぁ?(ほんとによく言うよ)

◆わが家に大ピンチ到来

 ところで、わが家には大きな問題が起きて、先日家族会議が開かれた。私のクビが危ないのである!
 私は、いわゆる派遣社員で大手電機メーカー関連の物流部門で働いている。某大手メーカーと私の間には3クッションあってそれぞれが利益をとっているので、当然、私のところに来るまでには相当ピンハネがあり、私の月収は可処分所得に換算して17〜18万円でボーナスなどはない。社会保障はないので、老後のことはとりあえず考えないようにして、国民年金は払わず、やむなく国民健康保険だけを払っている。
 派遣元(私が直接所属するH社)がいうには「私の給料が高すぎて払いきれないので、派遣先に引き取ってもらう」ということだ。派遣元に行けば少しは給料もよくなるとお考えの読者もいるかもしれないが、派遣先の企業はいくつもH社のような派遣会社を抱えていて、その1つに移籍させようということなのだ。そこの社員に話を聞けば、H社よりもひどいらしい。
 年収にして250万円に満たない労働者を抱えきれないというのだから、いつの間に日本という国はこれほどの貧乏国になったのだろう。でも待てよ、東京には六本木ヒルズなる私のような田舎者が見たら目もくらむような立派な建物ができ、ケタ違いの高価な商品が取り引きされているようだ。また、派遣先の某大手電機メーカーは企業の存続のため安くて良質な労働力を求め、中国に工場を建てている。国内でもより安価な労働力を求め、派遣元に数次にわたる単価切り下げを要求してきた。
 一度私にも単価の切り下げ、つまり賃下げの通告があったが、私はこれ以下の賃金では生活不可能になるので「いやだ」といった。この時はそれ以上会社からの賃下げ通告はなかったが、派遣先からは単価切り下げが何度も来ていたのであろう。そしてついに、派遣先から支払われる単価より私に払う単価(賃金)が上回ってしまったらしい。下請けや労働者の生活が困窮する原因をここに見ることができる。
 ところで、わが家の家族会議では、闘う方針が決定された。この決定を受けて翌日、労組に事実報告をした。組合からは「社長との会話をテープに隠し取りしておいて」とアドバイスされたが、すでに妻から小型テープレコーダーを借り、息子のゲーム機から電池を借り、家族の協力のもと何度もテスト済みだ。
 しかし、社長との会見は2回延期され、まだこの時点では実現していない。「逃げるんじゃねーこのやろー」私は、ユーにもミーにもまだ金がかかるんだ!


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