労働新聞 2003年5月25日号 通信・投稿

書籍紹介
高橋哲哉著 「心」と戦争
教育基本法改悪、有事法制に警鐘
日本の国家戦略を暴露

 この本のテーマは、「この時代をどう見るか」ということにつきる。今の時代を読み解くカギとして、「心」と「戦争」を取りあげ、それらをつなぐものとしてこんにちの「国家」の姿を検証している。
 そして、戦時法である有事法の制定と併せて「日本人としての自覚」を求める教育基本法改悪が進んでいる現実について、「1945年の敗戦後もっとも深い危機の時代に私たちは立っている」と、強く警鐘を鳴らしている。また、国家のこうした動きの根底には、国家戦略としてグローバリズムに勝ち残るための国づくりがあることを鋭く指摘している。
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 この本は高橋氏がカルチャースクールで講演したものがベースになっており、4つの講で構成されている。
 第1講「道徳副教材『心のノート』の思想」
 第2講「愛国心と選別・・教育基本法『改正』が狙うもの」
 第3講「『有事法制』はこの国をどう変えるのか」
 第4講「『靖国』・・戦死者追悼の過去と未来」
 それぞれが平易な文章になっており、分かりやすく説得力がある。
 各講の内容を簡単に見てみよう。
 第1講では、02年春から全国の小中学生に配られている「心のノート」を取り上げている。言葉だけ聞くと文句のつけようのない「立派なこと」が書いてあるように見える「心のノート」の内容をていねいに検証し、その狙いを暴露している。批判精神を否定する報恩=感謝のイデオロギーは、グローバル化の時代の「修身」であると、高橋氏は結論づけている。
 02年度の新学習指導要領改訂で、6年生の社会科の「学習目標」に事実上の「愛国心」が入り、福岡市では02年度から「愛国心」を評価する通信簿がつくられた。文部科学省自らが教育基本法を否定した「愛国教育」を進め、教育現場を支配している。また、バブル崩壊後、国民の間に「強い国家」を求める気持ちが生まれているとの指摘は、興味深い。
 第2講では、教育基本法の改悪の狙いを暴露している。それは、憲法改正への一里塚として進められており、これは戦後一貫して進められている動きである。
 「個人の尊厳」よりも「日本人としての自覚をもつ人材」育成が彼らの狙いだ。「エリートは100人に1人でいい。非才・無才はただ実直な精神だけを養ってもらえばいいんだ」との言葉は衝撃的だ。大競争時代を勝ち抜くために、あらゆる手段を使って国際競争力を高めなければならない・・これがすべての出発点となっている。
 第3講では、「有事法制」によって日本社会に何が起こるかが書かれている。軍事優先社会が到来し、戦争協力を拒否すれば「非国民」となる。日本に危機がありうるとすれば、それは米国の動きと連動したもので、米国が行う戦争に協力すれば、日本も反撃を受ける可能性が出てくる。私たちの社会は敗戦後、最大の歴史的分岐点に立っており、選択を迫られていると指摘している。
 第4講では、靖国神社の何が問題なのかが述べられている。国家のために戦争で死んだ人を英雄化し、国民を新たな戦争に動員する動機づけをしていくシステムが靖国神社、国家神道である。国立追悼施設構想についても、新たな戦争へ国民を動員するものとして、批判している。国家に褒め称えられることで、戦争で死ぬことは幸福だと兵士も家族も思う。これも「心」が「国家」に捕らえられていく典型的な回路となっており、この回路を断ち切る必要性を訴えている。
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 私たちは戦前の過ちを決して繰り返してはならない。支配層が推進する危険な国家戦略を見抜くことは、敵を鮮明にし、味方の隊伍を整えて闘うために必要不可欠な作業だ。この本は、そういう視点から見て、大いに参考にできる書といえよう。とりわけ、教育現場で働く皆さんにとっては、闘う上で大きな力になるものと確信する。         (U)
晶文社発行 
本体価格1400円


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