労働新聞 2003年5月25日号 通信・投稿

上場台地の百姓から
養鶏場を解雇される

石油で育つハウスミカン−−
こんな仕事は百姓の仕事じゃなか

佐賀・田畑百生

◆上場台地ではいま

 上場地方は畑作と畜産が主です。5月下旬は葉たばこの収穫が始まります。農協でなくて、JTが直接買いつけます。農家にとってはこの収入がかなりのウエートを占めます。上場農協では、昨年140億円ぐらいの売り上げがありましたが、畜産(飼育牛)が6割、ハウスミカン、イチゴそれぞれ約15億円、それに露地野菜。コメは2、3億円で影も形もなくなってしまいました。
 コメは植えて1カ月になります。上場コシヒカリは人気はありますが、手のしびれる冷たい時期に苗代して、夏の暑い盛りに稲刈りをしなくてはならない。それを考えたら、1俵あたり1万5、6千円では割が合わない。佐賀平野部の人がそんなことを聞いたら、上場の人は違う人種、ようそんなことをするなと、ばかにされるような感じです。労力がかかってるから価値があっていいはずですが、佐賀平野でつくられるヒノヒカリと価格が変わらない。
 イチゴの「ほのか」があと1カ月くらいで終わりです。6月下旬までたくさん収穫できます。タマネギは今が最盛期で、まもなくメークインというジャガイモの収穫期にもなります。カボチャも畑に植えています。
 ハウスミカンの収穫が始まって1カ月になりますが、6月には出そろいます。ハウスミカンは燃料で100万円以上かかります。「石油」で育ったわけですね。こんなことをやるのは百姓の仕事じゃなかです。こんなばかなことをやっちゃいけない。補助金など出しているのは政府なんですね。暑い時にミカンが食べたければニュージーランドから輸入すればいいし、どうしても食べたければ夏ミカンがあるんだから、それを食べればいいのに。

◆養鶏場のアルバイト

 前回、養鶏場のアルバイトと生産と仲買の組み合わせで生きていく、と書きましたが、実はあれから事情が変わりました。5月2日の朝に養鶏場は解雇されました。社長から呼び止められて解雇の宣告を受けたんです。自分も農家ですから、経営者の立場でものを考えるし仕事もする。しかし、雇われる立場ですから、経営者と関係なく勝手に余計なことできません。経営者が2人いたらうまくいかないですね。
 養鶏場は有精卵とケージ(かご)卵を生産しています。機械化された養鶏場で採れる卵とは、鶏の品種、えさ、水、施設の規模、すべて違います。最新式の養鶏場は人手はいりませんが、ここはいちばん大事な集卵をはじめ多くは手仕事でコストがかかる。人間の手は2本しかないから、限度があります。だから、高くて当たり前です。
 この卵を唐津の保育園、お菓子屋さん、農協の直売所などに配達する仕事に携わっていましたが、お客さんたちと顔なじみになりました。仲良くなって、卵が1個でも余計に売れるようにするのが配達人の仕事です。世間話を社会情勢などをおりまぜながらしました。これが息抜きにもなりました。
 こうして営業のはしくれが社長より余計に売っていました。社長はそれが気に入らなかったようです。卵づくりは1流でしたが、販売面では不十分でした。九州各地から遠路はるばる買いに来てくれる人には、卵を高く売る一方で、配達の卵は安い。あんなに安売りしたら経営成り立たないし、配達人たる俺の価値はどこにあるのかと疑問が出てきました。
 しかし、6カ月間のアルバイト経験は、47年生きていた中でもかなり凝縮されたものとなりました。お客さんたちと仲良くなってから辞めたので、今後、仲買の仕事する時に話に行けるし、よかった。だから「ありがとうございます」と言って解雇をうけました。そのおかげで、自分の本業である生産と仲買に専念できるということになりました。 (つづく)


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