労働新聞 2003年5月5日号 通信・投稿

政府は国内産業を育成しろ!
価格破壊は生活破壊だ

金型製造労働者 佐藤義治

 最近、新型肺炎、重症急性呼吸器症候群(SARS=サーズ)が中国などアジア各地で猛威を振るっていると、テレビや新聞をにぎわしています。患者の方はもちろん大変でしょうが、航空産業や観光産業は大きな打撃を受けているようです。
 あのトヨタも中国に行っている社員に帰国許可を出しそうです。会社でも話題になりますが、「帰っていいと言われても、帰れるのだろうか?
 もし帰って生産が止まれば、ただじゃすまないだろうし、きっと無言の圧力の中で、中国で仕事をするんだろうな」「そうだよ。あのトヨタだよ。人の命よりもうけが大事じゃないの」などと、昼休みに話しています。
 私たちの産業でもSARSの影響が出てきています。最近、金型の見積もりを頼まれたので、社長と相談し120万円と出しました。しかし、相手からは「中国から60万円の見積もりが来たので、悪いけど、今回はなしで」と断られました。あーあ、と思っていたら、SARSのためその会社は中国に打ち合わせにも行けず、立ち往生しているということでした。思わず、「ざまー見ろ」と言いたくなります。
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 私の会社は、金型をつくる零細企業です。この間、大手のコストダウン要求のために「価格破壊」が進んでいます。さらに中国の金型産業も躍進しています。こちらが200万円くらいの見積もりをした製品が、「中国では…」と、値切られてきました。
 これらのことは中国が悪いのではなく、大企業がもうかりさえすれば、どこにでも進出したり、国内産業の育成などを考えないためです。産業の空洞化は失業者をつくり出すばかりか、技術も空洞化してしまいます。
 こうして値切られた分だけ、よりたくさんの仕事をしないと立ち行かない状態です。だから、社長は安い仕事でも何でも受けて来なくてはならず、私は毎日のように長時間労働が続いています。賃金が安いので、残業をしなくては生活できません。女房も「体がもつの?」と心配してくれています。私もそれは分かっていますが、残業の毎日です。
 それでも仕事があるだけましかもしれません。うちに仕事を回してくれる会社でも仕事があまりないようですし、近所の工場でも「2週間も仕事がない」と社長がぼやいています。今年になって、うちと関連する会社が3社がつぶれました。
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 世間では「価格破壊」といって、値段が下がれば国民生活がよくなるようなことがいわれていますが、その価格に労働者の賃金が含まれていることは余りいわれていません。私も牛丼が安くなった分だけ、その恩恵に浴している部類ですが…。でも、賃金が価格破壊されれば、労働者の生活は厳しくなりますし、消費も落ち込みます。どうして、マスコミや政治家などはそういうことを見ないのだろうか、と感じています。
 さらに、5月からは発泡酒の税金が上がったために値上げされます。医療費も3割負担で、うかつに病気にもなれません。私にできるのは、せいぜい発泡酒のまとめ買いくらいです。それも金があまりないので、たかがしれていますが。
 今日も、疲れて帰ってきました。風呂上がりに、あの中国が60万円で見積もった仕事がうちに来ないかなあーと思いながら、発泡酒を飲んでいます。


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