労働新聞 2003年5月5日号 文化

演劇紹介

劇団ノリペ・ハルラサン公演
マダン劇「漢拏(ハルラ)の慟哭(どうこく)」

済州島4・3事件55周年 
米軍の責任追及続ける韓国民衆
事件の真相と犠牲者の怨念描く

 マダン劇は朝鮮の伝統的民衆演劇である。舞台は観客に囲まれており、その舞台のことをマダン(広場という意味)という。神話的・祭儀的な性格ももつ演劇だ。
 マダン劇は客席と舞台が共に呼吸し、お互いに楽しむ。俳優が客席にまで入り込み、観客と会話を交わす。即興的なせりふ、にぎやかな歌と踊り、おどけたしぐさと表情。その風刺と楽しさが観客を沸き立たせる。
 今回、韓国の劇団ノリペ・ハルラサンのマダン劇公演を見る機会に恵まれた。この「漢拏の慟哭」は、1948年4月3日の済州島・漢拏山を根拠地とした島民の武装蜂起をきっかけに、3万人を超える無実の島民が米軍の指揮によって虐殺された事件を描いている。
 歴代の韓国政府はこの事件を封印してきたが、99年に金大中大統領が真相究明のための「特別法」を制定し、03年3月に真相報告書が提出された。これによって、犠牲者の名誉回復が行われた。しかし、米軍の責任追及は不十分さを残し、今後もその追及は続けられよう。
 このマダン劇は、事件の真相究明のための世論を盛り上げる上で、大きな役割を果たしたという。事件から55年の年月をかけて真相追及した人びとの思いが、このマダン劇に込められている。
 「天をさまよう怨魂よ、ここに舞い降り、恨を解かんとする我らを見守りたまえ」
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 「米国は信じない ソ連にもだまされない 日本が立ち上がった 朝鮮人は気をつけろ」…この歌をいっしょに歌いましょう、という呼びかけから始まった。
 舞台は済州島北部の北村里(プクチョンリ)。牛飼いのトッコンと村人は、日本の植民地支配から解放され、自ら建てた学校で朝鮮の歴史を学び、祖国の完全な独立は米国など他国の手を借りず、自分たちで果たすべきだと話し合う。
 47年3月、南朝鮮労働党の関係者が起こした警察襲撃が引き金で、無実の村人に警官が発砲するという事件が起こり、トッコンたちは派出所に抗議するが、報復を恐れ山へ逃げ込む。
 米軍の徹底的な軍政下で、軍警や他地域の人びとからなる討伐隊は弾圧を繰り返し、48年4月3日、ついに島民は武装蜂起を決行する。国連主導の南朝鮮単独選挙が朝鮮分断に連なるとして、北村里の住人も選挙をボイコットする。
 分断国家成立以降も、済州島は「パルゲンイ(アカ)の島」とみなされ、トッコンの幼なじみソギュンの密告によって討伐隊は住民に拷問を加え、山への援助を断つため中山間部落を焼き払った。戦闘で死傷者を出した討伐隊は、報復のため数百人もの村人を学校の校庭に集め、「人を撃ったことのない兵士に経験を積ませる」ため、情け容赦なく次々と射殺し、村を焼き払う。
 山を下りたトッコンは軍に捕まり拷問を受けた後、強制的に労働させられていたが、50年6月に朝鮮戦争が勃発(ぼっぱつ)すると汚名返上をかけて入隊を志願する。そしてオモニの元に、トッコンの戦死通知が届く。オモニは、4・3事件が息子を戦争に駆り立てたのだと泣き崩れる。トッコンのために、村人はコンノルリム(若い死者の霊を最後に遊ばせて慰霊する)であの世へ送ろうとし、学校の校庭まで来る。ここで無惨にも射殺された家族を思い出し、いっしょに慰霊を始めると涙と慟哭の海となる。そこに、警察で昇進していたソギュンと警官が踏み込み、「パルゲンイの慰霊祭」とののしって祭壇を蹴散らし、「2度と慰霊祭や集団行動はいたしません」と、何度も復唱させる。死者のために涙を流すことさえ禁じられた村人は、抑圧と苦痛に耐えながら、封印された4・3事件の真相究明と慰霊への思いをこめて、コンノルリムを続ける…。
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 この劇の中で、米国と日本、そして軍警が、白黄黒の犬として島民に襲いかかるシーンがある。私はいたたまれなかった。戦前戦後、延々と繰り返された朝鮮への侵略者の描写だ。そして、それは過去の歴史ではなく、構図は現在でも変わらない。米国、そしてそれに付き従う日本によるイラク攻撃、朝鮮民主主義人民共和国敵視のことが何度も頭をよぎった。
 ブッシュは「イラク人民を解放し、民主主義を根付かせる」と声高に叫んだが、少なくともイラク国民は米国のそれを望んではいないだろう。同じく、済州島の人びとも望んでいなかった。自分の国のことは自分たちで決める力があった。それを認めないばかりか、都合のいいように事実をわい曲し、軍事で抑えつけるのが変わらぬ帝国主義の論理なのだということを、このマダン劇にまざまざと見た。
 日本人は、今まさに国の進路を問われている。アジアで、全世界で、米国といっしょに人びとの慟哭をますます深める道か、その逆の道か。舵をきりかえる力を、日本国民は持っているのではないだろうか。   (K)


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