労働新聞 2003年4月15日号 通信・投稿

地域に世直しの拠点築こう
病院から追い出される−−
涙ながらに訴える高齢者

介護医療労働者 吉本崇幸

 私は農村地域にある病院で老人介護の仕事をしています。ベッド数は130床で、介護病棟はそのうち70床あまりです。
 この4月から介護保険が見直され、その影響でしょうか、介護度の低い要介護度1〜2の入院患者さんはグループホームなどの施設に移っていっています。というより、病院から追い出されているのです。「在宅ケアを重視する」という政策は、福祉の現場ではお年寄りの居場所を奪っているといえます。
 ある日私が出勤すると、あるおばあさんが「吉本さん、お世話になりました。私は出たくはないんだけど、明日の午後ここから出て行くことになりました」と涙ながらに訴えるのです。病院としても収入を上げるためには介護度の高い(より介護の手がかかる)人たちを入院させるのです。

体調不良を訴える職員が急増

 介護職員の労働密度も高くなります。聞くところによると今まで介護職員は入院患者さん3人に1人でしたが、この4月から4人に1人でよいということになったようです。病院経営者もいきなり人員を減らすということはせず、新規入職者の採用を手控えるなど自然減を待つ策のようです。
 ここ最近、体調不良を訴える職員が増えています。かく言う私もこの冬、ヘルニアによる腰痛で1カ月近く仕事を休みました。私は病欠ではなく有給休暇を使って養生しましたが、有給の少ない人は欠勤扱いになり、給料も減り、下手すれば保険料を持っていかなくてはならない場合もあります。

原則的組合活動を進める

 ところで、私は少人数ながらも労働組合の分会責任者をしており、今は春闘のさなかです。病院全体(医師は除く)の昨年度の平均基本給が17万2000円弱というきわめて低賃金の中で働いています。夜勤を月10回前後こなしたり、諸手当や年2回のボーナス(夏2.0カ月、冬2.5カ月)をあてにして、生活をまさしくつないでいるという感じです。
 今春闘の賃上げ額は1万2000円以上で要求しましたが、回答は「今年度の賃上げは不可能です」というものでした。病院経営者は収益が減る見込みだから出せないというのですが、別に赤字ではなく黒字なのですから「不可能」ではないはずです。
 これから団交が始まります。労働組合の組織率は微々たるものですが、組合員の意見を反映させ、組合の背後にいる心情的組合支持者の声を意識して、原則的な組合活動をやっていこうと思っています。
 余談になりますが、入院患者さんやその家族の人たちも心情的には職員の味方です。長年の厳しい労働に鍛えられた屈強な体格のおじいさんたちや、何人も子供を産み育てたおばあさんたちが今ベッドに横たわっています。
 「この五十数年子供を育ててきて、戦争に取られなかったのがいちばんの幸せだった」というおばあさん。「遺族年金を五十数年もらっているが、死んだ者がいちばんかわいそうよのう」というおじいさん。「米国がイラクでしていることは間違いじゃ」と言う家族たち。
 教育基本法改悪の答申、有事法制の策動、失業者の増加、福祉の後退、米国のイラク侵略と暗い世相が続きますが、これらは天災ではなく人災ですから、必ず人間の力で解決できると思います。
 まずは手短なところから奮闘して、押し返さなくてはと思っています。職場にしっかりと足を置き、地域から世直しの拠点を築いていきたいと思っています。


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2003