労働新聞 2003年3月5日号 通信・投稿

愛知万博と「勝者の論理」

発掘作業員 島田修司

  発掘作業の休憩時間。
 「俺の子供のころには、爺さんにキセルで殴られ、親父の拳骨(げんこつ)からどうやって逃れるか智恵を絞ったもんだったが。いまのガキどもは、過保護でどうにもならん」
 「俺のガキのころは、学校から帰るのを待ちかねたように家の手伝いをさせられて、遊ぶこともできなかった」
 「あのころは、何を食ってもうまかったよなあ〜。 葬式があった時にもらってくるラクガン、家族で分けて食った切れ端の甘かったこと」
 「サツマイモのつるや大根の葉の入った飯を食って育ったのだから、この不景気でも何とか生きられるさ」
 50年前にタイムスリップすれば、囲炉裏の上座でキセルを持って家族一同ににらみを効かせる年ごろ(60歳代前半)の爺さんたちの、会話の一部。俺もそういう爺さんの仲間になっている。

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 さて、今回は、テーマを愛知万博においてみた。

 「愛知万博は、瀬戸市民にとって利益があるか?」
「まわりの道が整備されれば、車で出かけるのにすごく便利になるだろうが」
 「じゃあ、瀬戸市はどうなる?」
 「未整備の瀬戸の道路では、万博があってもアクセスが不便で、瀬戸には金が落ちない」
 「せめて市内の幹線道路だけでも、万博の道路整備と関連した計画に合わせて整備する必要がある」
 「名鉄尾張瀬戸駅の駅前は、今、整備工事が始まっている」
 などの会話がまわりから聞こえてくる。
 私と瀬戸のかかわりは、埋蔵物センターの発掘現場が瀬戸にあるということだけで、瀬戸市の歴史も瀬戸の工事計画も調べていない。思いつくままに書いてみる。
 瀬戸の駅前を整備しても瀬戸市の発展はない。市内の道路はダンプカーがすれ違うには、狭過ぎる。万博の影響で北海道ナンバーなど、県外も含めてたくさんのダンプが走る。
 瀬戸物の原料となる土の運搬にダンプの運行は瀬戸の町には欠かせない。車社会になった今、道路整備をしない瀬戸市が、2両編成の私鉄の支線、終点の駅前を化粧しても万博後の物笑いの種とならなければと、余計な心配をしている。
 万博の道路整備は会場へのアクセスのみで、万博後は、市内から抜け出す車の便がよくなっただけとはホンマに情けない限りだと笑えますか? しかも、万博後にそのアクセス道路は豊田市への第二バイパスになるともいわれている。
 次に、海上(かいしょう)の森について。瀬戸の山は、平安時代の登り窯の登場から、粘土のある山の近くに作業場と窯をつくり、火力はまわりの木を手当たり次第に切り倒して燃やした。はげ山は、50〜60年で蘇(よみがえ)り、窯も戻ってきた。窯が定着するのは、江戸中期ころからだという。
 海上の森は戦後になってから、だれも手入れせずオオタカが住むようになった。万博の話が出てからこの森は、心ない人が捨てたビニール袋が多くなり、ネズミやカエルが少なくなっているという。
 瀬戸の町はこんな山ばかりでできている。手入れをしない山は、野ウサギがいなくなっている。オオタカの飛行範囲が広くても、餌の減少は生存を脅かす。山椒魚の住む川の上流には産廃の山があるという。
 万博?  祭りの後の虚しさを想像してはいかが? 
万博とは何だろう? バブルに踊っているクダラナイお祭りだと思う。 俺は祭りとは、縄文から続く自然の恵みに感謝し、新たなる収穫を神々に祈る行事として始まった、と思っている。万博は似たようなスローガンだが、似て非なるものだ。環境を守るといいながら、 自然に感謝した縄文時代と比べれば、自然を征服する現代のごう慢さが感じ取れる。
瀬戸のはずれにタダの風呂がある。朝の11時ごろから入れる。石鹸タオルは持ち込みだ。 湯船は5、6人が入れるぐらいだが湯は流し放題。 畳敷きの大広間がある。造成中の瀬戸市体育公園の施設の一部である。万博のオコボレかと思ったが、聞くところによると産廃業者によるものらしいという答えが返ってきた。

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瀬戸と万博を考える時、 万博推進派のごう慢といきつく果ての地獄が見える。
車社会を定着させた勝者のトヨタと万博推進派は、敗者の瀬戸市民など愛知県民にさまざまな犠牲を押しつけるだろう。
県知事選挙も終わり、瀬戸の発掘仲間では万博を見に行くことが話題の中心となっているが、赤字のツケをどんな形で押しつけられるのか。抵抗の準備をしなければならないと思う。
 また、万博の話が出るたびに、勝者と敗者の関係が思い浮かぶ。かつてヒトラーは、「勝者は、常に敗者に対し、さまざまな要求をなし崩しに押しつけるべきだ」というようなことを言っていた。
 新聞やテレビを見るたびにブッシュのイラク攻撃が、どうしても万博とダブってしまう。勝者の米国による、「悪の枢軸」とブッシュが勝手に決めつけたイラク、北朝鮮などへの攻撃は、まさに勝者の理不尽な要求の押しつけでしかない、と思うのは俺だけだろうか?


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