労働新聞 2003年2月15日号 通信・投稿

拉致被害者の家族再会を願う
解決の道閉ざす「家族会」

A

 NHKテレビの夜7時のニュース番組で、曽我ひとみさんがヘルパーの研修を受け始めたということが報道されていた。大事件でもない、こんな些細(ささい)なことをなぜわざわざ報道するのだろうかと思う。当人にとっても、迷惑な話ではないだろうか。
 テレビや新聞で帰国した拉致被害者を見るにつけ、彼らの境遇に深い同情を感じる。彼らは自分の意思によって人生を選ぶことを、二度も妨げられているからだ。一度は朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の工作員によって拉致されたこと、そして二度目は日本政府に拉致されたことだ。
 彼らは北朝鮮に子供を残したまま、日本に定住することを強いられた。客観的に見れば、彼らは子供を捨てたと同じだ。彼らの苦悩は時間がたつにつれて、深く厳しいものになるだろう。わが子を捨てることに、心の痛みを感じない親はいないからだ。日本で満面の笑みを浮かべる両親を報道した新聞や雑誌を見て、北朝鮮に残された子供たちはどう思うだろうか。
 それにしても、一時帰国した彼らを北朝鮮に帰さなかった政府の判断は正しかったのだろうか。日本政府のこの稚拙な対応によって、北朝鮮は態度を硬化し、日朝友好ムードは吹き飛んだ。被害者たちの家族いっしょに暮らすというささやかな願いも吹き飛んでしまった。
 被害者たちは口をそろえて「政府を信じて待ちます」と語る。それは本心なのかと聞きたい。あまりにもお人好し過ぎる。子供や夫にすぐに会いたいというのがふつうだろう。マスコミは、彼らが北朝鮮にいた時「私たちに会いに来てください」と呼びかけたことを、北朝鮮の指図を受けた発言だと騒いだ。じゃあ、日本でのこの発言は何なんだ。
 政府が被害者たちの生活を最優先に考えるなら、さまざまな外交努力ができるはずだ。そうした外交努力を放棄し、北朝鮮批判キャンペーンをあおる政府をどうして信じられるのだろうか。
 政府は生活支援金を彼らに与える法律をすばやくつくった。しかし、彼らに対する賠償は北朝鮮がやるべきで、政府はそうした問題を北朝鮮と交渉するのが筋ではないか。本末転倒の政府の仕事ぶりは腹立たしくもある。
 余談になるが、中国侵略戦争の中で、国の棄民政策で中国に捨てられた残留孤児たちは帰国しても何の生活の保障も与えられていない。政府はこうした人びとにこそ、国の責任として手厚い保障をすべきではないか。
 また、テレビによく出る「家族会」なるものはいったい何者なのだろうかと思う。被害者たちの代弁者面してしゃしゃり出ているが、彼らが被害者たちのことを本当に考えているとは思えない。横田めぐみさんの両親が北朝鮮にいる孫に会いたいと望むのは、当然ではないか。それをむりやり行かせないというのは、理屈が通らない。国交正常化交渉の中で解決できる問題も多いはずなのに、その道を閉ざすことが、どうして問題解決に結びつくのだろうか。
 被害者たちを利用して、北朝鮮敵視を振りまく人びとに強い怒りを感じる。いま政府がなすべきことは、日朝国交正常化交渉を再開し、国同士の約束として平和な友好関係をつくりあげることだ。その先にしか、被害者たちの家族の再会はありえないと思う。
 被害者たちは何も遠慮することはない。これまで、十分に耐えてきたのだから。今こそ自分たちの希望を堂々と主張すればいいと思う。そのことを平和を望む多くの日本人は支持するだろうし、その声は硬直した事態を打開し、前進させる力になるに違いない。


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