労働新聞 2003年2月5日号 通信・投稿

コストダウンに泣く零細

200万円の仕事を120万円に
社長に頭下げられ減給のむ

金型製造労働者 佐藤 義治

 正月の3日、仕事中に社長から「終わったら話があるから」と言われた。3日から仕事をしなければならないというのも、とんでもない話だが…。うちのような零細企業では納期が短くされており、土曜日はもちろんだが、日曜日にも仕事をすることが多い。年末も30日まで仕事だった。
 仕事を終えて、事務所に行く。
 社長「悪いが給料を下げてくれないか」。
 俺は「えー」と絶句。しかし、1昨年にも下げられたので黙ってはおられない。「どういうことですか」。
 社長「実は銀行からの借り入れが限度額になってしまった。これ以上の借り入れはできなくなった。運転資金も借りられないので、文字通りの『自転車操業』で、毎月の仕事が途絶えたり不渡りが出たら、間違いなく倒産する。そこで、月々の支出をできるだけ抑えないとやれない。すまん」と、頭を下げられた。
 続けて社長は「今年1年を乗り切れば、銀行への返済も一定できるので、そうなれば運転資金ぐらいは借りられるようになる。1年間、辛抱してくれ」と言う。社長はすでに自分の給料を削っていて、俺より少ない。そうしたことも知っているので、むげにはできない。
 俺は「そう言われても子供も上はまだ大学生だし、下は今年高校を卒業する。俺だけでなく家族全体の問題だから、家で相談させてくれ」と事務所を出た。
 家に帰って、いつものように風呂に入り晩酌をしたが、酒がうまくない。でも、飲まずにはいられない。すると女房が「いい加減にしたら」と言う。そこで「ちょっと話がある」。そして女房に、ことのしだいを話をした。
 小言を言われるかと思っていたら、「しようがないわね。どうせ、あなたの歳なら再就職は難しいし、当てもないんでしょう。酒もタバコも止めるのね」などと言う。確かに50歳を超えた俺には、再就職は難しい。ハローワークでの募集でも40歳までだし、それ以上の場合でも給料は20万円そこそこで、とても生活できない。
 結局、社長の申し入れを受け入れ働いている。
 会社が危なくなったのは社長の経営能力よりは、コストダウン要求のきつさのせいだ。
 これまで200万円くらいの仕事が120万円くらいでくる。親会社は「中国なら60万円でできるというので、120万円でやってくれないか」と言ってくる。
 社長も多少は抵抗するものの、最後は「いやなら、ほかに頼む」の一言で、受け入れざるを得ない。断れば、次から仕事が来ないからだ。
 しかし1度、そうした値段で受ければ、次からは自動的にこれまでの半値ばかりになる。ここ数年、そうした状態が続いている。
 トヨタが2年連続1兆円以上のもうけを記録しているし、日産もホンダも好調らしい。そうした大企業の繁栄の陰で、うちのような零細企業は泣かされている。これが今の中小零細企業の実情ではないだろうか。
 本当に世の中狂っている。ちゃんと仕事をしているのだから、ちゃんとした料金を払ってくれれば、こんなことにはならない。やっぱり大企業が悪い! などと思っている。
 そうした状況なので、もうけの少ない仕事でもやらざるを得ない。結局、量でこなしている。1年間はしようがないと思いつつ、毎日夜遅くまで働いている。


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