労働新聞 2003年2月5日号 文化

映画紹介

T・R・Y(トライ)
監督 大森 一樹
日本軍を手玉にとる熱血詐欺師

 痛快な娯楽映画だ。軍人と金持ちとをこき下ろし、革命家と詐欺師を正義のヒーローに描いたところがいい。日ごろの緊張した生活の息抜きとして、たまにはこうした映画を楽しんでみてはいかがだろうか。
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 舞台は、帝国主義列強が権益を争う20世紀初頭の中国・上海。主人公の伊沢修(織田裕二)は詐欺師だが、熱血漢。彼のターゲットは欲の皮の突っ張った金持ちや悪党で、彼らを手玉にとって手に入れた金は、貧しい人びとに分け与える。ロシアで武器をだまし取り、革命家たちを援助したこともある。
 伊沢は上海でひともうけしたが、捕らえられて刑務所で刺客に狙われるはめに。そこで関飛虎という中国人に助けられる。関は清朝打倒の革命家グループのメンバーで、伊沢に近づくために刑務所に潜入していた。
 刑務所から脱出した伊沢は、関から「武装蜂起のために武器が必要だ。日本から運ばれる武器をだまし取ってほしい」と頼まれる。はじめは乗り気でなかった伊沢も、関たちのずさんな計画を見るにみかねて、手助けすることになる。
 しかし、日本から武器が運ばれるという情報はデマだった。それでは、どうやって武器を手に入れるか。伊沢は日本軍をだまして、武器を運ばせる計画を思いつく。
 伊沢らは日本へ渡り、料亭の女将・喜春(黒木瞳)の世話になりながら、陸軍きってのエリート・東中将(渡辺謙)に巧みに接近する。そして、日本軍の中国侵略の野望を逆手にとって、武器の輸送をまんまと実現する。
 ペテンにかけられたことに逆上した東は、反撃に出る。伊沢の明晰な頭脳が活発に動き出し、物語は意外な結末を迎える…。
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 この映画の原作は井上尚登の小説「T・R・Y」(角川文庫刊)で、フィクションだ。しかし、極貧の中で両親を失った中国人や、兄を日本軍に殺された朝鮮人を登場させるなど、崩壊寸前の清朝政府の下での民衆の貧しさ、日本と朝鮮とのかかわりなどを、たくみに表現している。
 また、辛亥革命当時の熱気に満ちた雰囲気、「新しい国」をつくることが「革命」で、その力は民衆の武装した闘いにあることが、ストレートに伝わってくる。日本人と中国人と朝鮮人の信頼と友情も、すがすがしい。
 物語の展開も歯切れよく、おもしろい。中国拳法のアクションも見どころとなっている。
 この作品は日中国交30周年にあたる2002年につくられた。広大なオープンセットをもつ上海電影集団公司の全面的なバックアップを受けて、20世紀初頭の上海の雰囲気を再現している。制作には日中韓のスタッフが合同してあたった。
 アジア諸国の敵対をあおるのではなく友情を描く・・こうした映画であれば、アジア民衆に受け入れられるに違いないと感じた。    (U)

全国東映系劇場で上映中


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