労働新聞 2003年2月5日号 文化

CD紹介

桑田佳祐
「ROCK AND ROLL HERO」
日本社会に疑問と皮肉

 本作は、サザン・オールスターズの桑田佳祐のソロ・アルバムである。
 本作を紹介しようと思ったのは、アルバムタイトル曲の歌詞に興味をもったからだ。
 この曲で桑田は、「米国(アメリカ)は僕のHERO 我が日本人(ほう)は従順(ウブ)なPeople」「安保(まも)っておくれよLeader」「国家(くに)を挙げての右習え 核なるうえはGo with you 暗い過去も顧みずについて行きましょう」「政府首脳よ ニッポンは妙じゃない?」と、あくまでも米国に付き従い、きな臭さを増す日本社会に疑問と皮肉を投げかけている。
 また、日本経済を「極東(アジア)の成り金」と呼び、「円で勝つ夢はMelt away 後は修羅場だ 泡沫(あわ)のようにすべてが消えた」と歌っている。
 この曲のところどころでは、ホンキートンク調のピアノを聴くことができる。ホンキートンクは、米国の安酒場で弾かれる独特のピアノ演奏法のことだが、現在の日本のあり方は、「米国の安酒場ほどにレベルが低い」ということか。
 同アルバムに収録されている「HOLD ON」では、「のど元過ぎればテロも飢えも流行らない」「国民すべてが番号をふられ」「夢の続きは見れそうもない」と歌う桑田。「どん底のブルース」では、何と、「隣のあの娘が輪姦(まわ)されても 綺麗(きれい)なサンゴが汚されても 戦争(いくさ)に赴く基地(ベース)は安保(まも)られる」とも歌っている。沖縄の現実を指したものだろうが、ここで彼は「人間なんて嫌だ」とまで言う。
 桑田自身は、このアルバムを「私的なもの」と評している。軽妙なサザンの歌の陰で、桑田のこの国、社会への批判と絶望は、意外に大きいようである。同時に桑田は、その中で文字通り「HERO」となっている自分自身、アメリカン・ロックに多大な影響を受けてきた自分自身をも、自嘲(じちょう)しているかのようだ。彼は、独特の「歌詞が聞きとれない」歌い方をするだけに余計、アルバムのコンセプトが自嘲的なものに聞こえてしまう。「ROCK AND ROLL HERO」がコカ・コーラのキャンペーン・ソングとして使われたのも、誠に皮肉といえるかもしれない。
 だが、絶望からは何も生まれない。桑田もかろうじて、「ROCK AND ROLL HERO」で「青春の同志よ 沈黙は愛じゃない」と呼びかけている。たとえ彼個人の意識がどうあろうと、彼が歌いかけている内容は、日本社会の現実だ。それを聴き、行動への力に変えていけるかどうかは、私たち自身の課題なのだ。    (O)


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