労働新聞 2002年10月25日号 文化

映画紹介

『ナビゲーター ある鉄道員の物語

民営化の実態、労働者の苦悩描く

 この映画は、イギリスのケン・ローチ監督の二〇〇一年の作品だ。英国鉄道民営化の実態と鉄道労働者の苦悩をリアルに描いている。
 舞台は95年のヨークシャー州南部。主人公は線路の保線や事故復旧に携わる鉄道員たちだ。彼らの仕事は重労働で、経験がものをいう技術職である。オレンジ色の作業服を着て仕事をする仲間たちは、強い連帯感で結ばれている。
 映画は、作業中の線路に電車が急接近する場面から始まる。彼らの仕事は、命がけの危険な仕事なのだ。
 ある日、鉄道員たちは休憩室に集められ、民営化されたことが伝えられた。労働条件の切り下げが告げられ、管理者は「いやなら会社を辞めろ」と迫ってきた。怒った数人の労働者は、「仲間を捨てる気か」との声を振り切って、その場で退職してしまう。彼らは、時給は高いが身分の不安定な派遣会社に転職した。
 民営化された会社同士の激しい競争が始まり、仕事の取り合いで現場は殺気立つ。労働条件の切り下げ、権利のはく奪が相次ぐ中で、ベテランのミックは会社を辞めて派遣労働者となり、これまでと同じ鉄道現場の仕事についた。経験のない現場監督に逆らったミックには、仕事がこなくなってしまった。
 誇りを傷つけられたミックはすっかり卑屈になってしまう。そんな時、やっとありついた線路工事で、見張りを立てなかったため、仲間が電車にひかれて死んでしまった。
 一方、競争に負けて契約を取れなくなった保線会社では、労働者全員が解雇されてしまう…。
  *  *  *
 鉄道員たちは陽気で誇り高い。口は悪いが仲間意識はとても強い。しかし、民営化によって彼らの団結と誇りはズタズタにされてしまった。彼らは「俺たちは鉄道員じゃない。会社の社員だ」と自嘲(じちょう)気味につぶやく。そして、仲間が事故にあってひん死の状態にあるときに、仲間の命よりも保身に走ってしまうのだ。そのことで、彼らはまた傷つき、自信を失ってしまう。
 民営化攻撃をはね返せなかったことが、労働者の自尊心をいかに傷つけたか、切々と描かれている。闘いを放棄した労働者階級のみじめな、最低の姿が容赦なく描かれる。彼らの悲しげな後ろ姿は、いつまでも心に残る。
 10人いなければできない仕事を6人でやれと言われて、それを拒否するのは労働者として当然のことだ。しかし、労働者のどんなささやかな要求でも、会社側が好んで譲歩することはない。いつも労働者と経営者の利害は対立しているという現実を、労働者の目からとらえた作品は貴重だ。
 前々号で紹介したケン・ローチ監督の「ブレッド&ローズ」は労働者が権利を獲得する力強い作品だったが、この「ナビゲーター」は前作とは対照的で、暗くて重い雰囲気をただよわせている。
 しかし、作品に流れるテーマは同じだといえよう。労働者が人間としての尊厳を取り戻すためには何が必要なのかということを、深く考えさせる作品だ。     (U)

北海道、福岡、大阪などで上映。


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