労働新聞 2002年10月5日号 通信

雇用契約書も出さぬ経営者
施設オープンから4カ月
条件悪く3分の2が退職

福祉施設労働者 高山光雄

 私は、民間の有料老人ホームで働いています。
 高齢社会に対応するとして、2000年4月に介護保険制度がスタートしました。来年は丸3年目を迎え、見直しの年になりますが、すでに制度そのものの欠陥は横に置かれ、保険料の値上げだけが決まったかのように報道されています。
 国、自治体ともばく大な財政赤字を抱える中で、国民大多数、とりわけ利用者である高齢者やその家族への負担を増す保険料の値上げが安易に行なわれれば、介護サービスを提供する側も、そのサービスを受ける利用者も、また、介護を現場で支える労働者にとっても、何一つ良いことはなく、いっそうの将来に対する不安を増大させるだけだと思います。
 いろんな矛盾を抱える介護保険制度の問題については、別の機会に報告したいと思います。今回は私の勤務する職場を実例に、現場の労働者の問題について触れたいと思います。
 介護の現場は、大雑把にいえば、いわゆるホームヘルパーとして各家庭を訪問して家事、身体、介護などの在宅サービスを行う部分と、特別養護老人ホームなど、各種の社会福祉施設での入居者に対する介護に従事する部分に分かれます。私の場合は後者に属しますが、資格はホームヘルパー2級です。
 介護労働者に対するアンケートが新聞で報道されていましたが、「ホームヘルパーの職については、決して仕事内容からして満足のいくものではない」と思う人が大部分です。根本的な問題として、ホームヘルパーの多くが、その身分が常勤ではなく、非常勤、嘱託、パート、登録といった具合に雇用関係が非常に不安定だからです。したがって賃金は時給契約が多く、全体的に低賃金と長時間労働になっています。
 施設がオープンする時は、私の職場は施設長など含め、15人のメンバーでスタートしましたが、4カ月たってみると、当時のメンバーは、3分の1に減りました。オープン以前の準備段階のメンバーを入れると更に退職した人数が増えます。
 退職の大半の理由は、社員で雇用された人もパートの人も、雇用条件への不満がほとんどです。最近入社した人も「ハローワークで見た雇用条件とまったく違う」と3日で辞めてしまいました。要するに、雇用条件とか契約の書面とか、きちんと確認するものがなく、口約束ですべてを行っているために、働く者にとって不安が常につきまとうわけです。
 事業主として、また経営者としては失格ですが、辞めた人のほとんどが問題点をきちんと主張しているので、徐々には改善がされてきています。なぜ、こういうでたらめがまかり通るのか?
 社長が辞める人に公言しているように「募集すればいくらでも人は来る」という考え方に根ざしています。
 突き詰めれば、倒産、失業が戦後最高を更新する今の日本の現状に、根本的な原因がある事は明らかです。
 この数カ月、労働基準法など、労働者の基本的権利の問題で、辞めた人も現在残っている人も含めて、何度が話す機会をもって、わずかずつですが、私たちの要求を実現しつつあります。


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