20020825

映画紹介
「この素晴らしき世界」

チェコ映画 ナチス占領下の人間ドラマ


 ヨゼフとマリエの夫婦はチェコの小さな町に住んでいた。1939年、ドイツ軍がチェコを占領し、ナチスのユダヤ人迫害は強まっていった。
 ヨゼフはナチスのために働くことを嫌がり、家で毎日を過ごしている。ヨゼフの家には、マリエに気があるナチス信奉者のホルストが出入りしていた。ホルストに逆らうと、ナチスににらまれるため、2人はいやいやながらもホルストを受け入れた。
 そんなときに、ヨゼフは収容所を脱走したユダヤ人の青年 ダヴィットに出会う。彼をナチスに引き渡すことができないヨゼフは、家に隠まうことにした。
 そこから、3人の緊迫した毎日が始まる。ヨゼフはナチスから疑いの目で見られないために、ホルストといっしょにナチスの下で働きはじめ、近所の人から白い目で見られるようになる。ホルストの目からダヴィットを隠すのはたいへんで、そのドタバタ劇は笑いを呼ぶ。しかし、ホルストは夫婦に疑いをもち始める。
 ドイツ軍の戦況が悪化する中で、ホルストは降格されたナチスの将校をヨゼフの家に住まわせてくれと頼みこんできた。マリエは「妊娠している」とウソをついてホルストの頼みを断った。ウソがばれると、ナチスに絞首刑にされる。子だねがないヨゼフは苦渋の決断を迫られる。マリエは解放の日に、男の子を出産した……。

*  *  *

 この映画は大戦中の実話から生まれたという。ナチス占領下のチェコ市民の生活の悲哀を、ユーモラスに表現した作品だ。しかし、その笑いの陰には、きわめて悲惨な現実が浮かび上がってくる。第2次世界大戦が終わって57年の歳月が流れたが、あの戦争をチェコの映画人がどのようにとらえているのか、興味深く見た。
 映画の中では、ナチス協力者・ホルストの存在が描かれる。ホルストは、ナチスが危なくなると、その身の振り方を微妙に変化させる。ヨゼフがユダヤ人を隠まっていることを知りながらも、あえてナチスに密告しなかった。
 ドイツ軍が敗北し、ソ連軍とレジスタンスがナチス協力者の摘発を行う中で、ホルストは捕まってしまう。ヨゼフも捕まりそうになるが、ダヴィットを隠まっていることが分かり救われる。ホルストはダヴィットの証言もあって、罪を問われなかった。
 映画では市民たちのナチスに対する嫌悪も描かれているが、保身のためにユダヤ人を追い出す場面も出てくる。複雑な市民感情をありていに描いている。
 外国作品は、その背景を十分理解することは難しいが、今も第2次世界大戦中に起こったことに関して、深い苦悩が続いていることを感じさせる。しかし、この作品では、占領下で市民たちがやむをえなく犯した罪を許そうという思いが伝わってくる。ヨゼフ夫婦の「罪」も、キリスト生誕になぞらえ、受容している。
 フジェベイク監督はこの悲喜劇を通じて、人間の尊厳がいかに強いものであるかを訴えたかったと述べている。
 世界中で今も戦争が続いている。理不尽な戦争の中で、もっとも苦しむ庶民に、温かい視線をあてた作品である。(U) 東京・岩波ホール上映中