20020705

映画紹介
監督 佐々部清
「陽はまた昇る」 技術者たちの誇りを描く


 映画の舞台は、30年前の日本ビクターの横浜工場だ。当時、右肩上がりの成長を続けていた日本経済は、石油ショックによって戦後初めてマイナス成長となった。経営不振のビクターは大合理化策を打ち出した。
 赤字部門のビデオ事業部長に左遷された加賀谷(西田敏行)の仕事は労働者の20%を削減することだった。しかし、技術屋の加賀谷は一人の首切りもさせないとの信念で行動する。加賀谷は赤字解消のために事業部を再編し、技術職の労働者を営業にまわした。こうしたやり方は当然、技術屋たちの強い反発を招く。見切りをつけた若手は、職場を去っていった。  加賀谷は本社の意向に逆らって秘密裏に家庭用ビデオの開発を進めていくが、先行してソニーがベータ方式のビデオを発表した。
 高卒でたたきあげの技術者たちは、誇りをかけて開発を急ぎ、軽量化したうえに二時間録画というVHS方式の家庭ビデオの開発に成功した。しかし、製品化直前、通産省はベータ方式による規格統一を打ち出し、他の規格を認めないことを決めた。
 VHSは必ず消費者に受け入れられると自信をもつ加賀谷は、親会社である松下電器の相談役・松下幸之助に直訴するために、大阪に向かった。しかし、そのとき妻(真野響子)が脳梗塞で倒れたことを知る……。

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 実在する話がモデルとなっているが、この作品はフィクションである。テーマは企業の商品開発の成功物語だ。
 正直いって、この映画を労働新聞の紙面で紹介するかどうか迷った。見ようによっては、労資協調を描いた作品にも見えるし、大合理化攻撃を受けた職場なのに、労働組合や赤旗が登場しないのもおかしい。また、作品としてはキャスティングにも新鮮味がない。とりわけ加賀谷を演じた西田の演技には工夫がなく、つりバカ日誌のハマちゃんか、と錯覚するシーンも多い。「陽はまた昇る」というタイトルも平凡すぎて、ざん新さが感じられない。
 しかし、不思議なことに見終わったあとにさわやかな感動が残った。実在の人物である加賀谷と工場労働者たちの、ものづくりにかけた情熱が伝わってきたからだ。
 映画では生産現場が再現される。青い作業服を着たビクターの労働者たちが、共通の目的に向かって必死で働くようすは、活気に満ちている。一つの思いでつながった労働者の仲間意識を表現したラストシーンは、団結した労働者のすばらしさを感じさせる。
 また、加賀谷は首切りで経営難を乗り切ろうとする無能な経営陣や、「長いものにはまかれろ」根性の通産省官僚とも激しく渡り合う。そして、VHSを売り出した後、残りの人生を家族とともに生きていくために自ら退職を決意する。こうした加賀谷の一途な生き方は、不況の時代を生きる労働者の共感を呼ぶことだろう。

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 VHSは世界標準規格となり世界中で利用されるようになったが、30数年たった今、VHSはDVDにとって代わられようとしている。そして、労働者はいっそうの産業空洞化と大リストラに見舞われている。
 これでは技術開発とリストラのいたちごっこではないか。リストラのない、労働者が流した汗と涙が報われる社会を希求する声なき声が、日本中にうっ積している。こうした社会的状況が、この作品が生み出された背景となっているように思われる(U)

東映系劇場で上映中