20020615

都の風便り
日出ずる国のW杯狂想曲

近江 八郎


 5月31日に始まったサッカー・ワールドカップであるが、そのゲームの内容は素晴らしいものがあり、賞賛すべきであることは否めない。しかし、各メディアが騒ぎ立てるほど世界が、少なくともこの日本全体がワールドカップ一色に染まっているだろうかと、首をかしげる毎日である。テレビのニュースキャスターが興奮気味に語り、ある番組のコメンテーターに至っては開いた口が締まらず、1人騒いで興奮している。真剣にグランドで試合をしている選手たちに対して冒とくであるようにさえ思える。大会が韓国、日本共同開催が決定してからワールドカップに興奮しているのは、各放送局と新聞各社。日ごろ主張の異なる新聞さえ、ワールドカップでは歩調を合わせ大きく紙面を割いている(何か意図があるのか?)。
 この騒ぎにさらに拍車をかけたのはチケット騒動であり、あれだけ争奪戦が行われたプラチナチケットが大量に売れ残り余っている状況。その販売方法もJAWOK(W杯日本組織委員会)は右往左往し、二転三転……会場はどこもおしなべて空席が目立つ惨憺(さんたん)たるものである。
 埼玉県知事はじめ文部科学省、韓国の機関もFIFA(国際サッカー連盟)に再三抗議の申し入れをしているがまともな返答はなし。チケット販売の総元締めの英国バイロム社のチケット販売責任者は「騒ぎすぎ」と一蹴しているが、韓国ではバイロム社が予約していたホテルに大量のキャンセルが出てホテル業界を慌てさせた。韓国は、これら一連のできごとにFIFAに対して損害賠償をも辞さない状況。
 同じ騒ぎでもカメルーンの大分・中津江村への入村遅れなどは愛きょうのあるものだが、これさえも当国カメルーンは動ぜず。気をもんだのは中津江村の純朴な村民とそれを取り上げたメディアだけであろう。一事が万事、メディアはこの調子であり、それらがすべてのごとく報じるのである。

*  * 

 私の住んでいるところは、キャンプ地でも大会会場でもないから、静かなものだ。そのご当地さえ、開催日に少し盛り上がっているだけだと聞く。キャンプ地と大会会場の「点」と「サポーター」だけが、その一瞬ワールドカップ一色になり、空騒ぎししているのはメディアのみである。
 そしてこの国のメディアを振り回し、その1国の行政をも騒ぎに巻き込んで高みの見物を決め込み、巨万の富を吸い上げて1人ほくそ笑んでいるのは、スキャンダルと金欲にまみれたFIFA帝国とそれを取り囲む利権集団である。彼らサッカー先進国(!)集団から見れば、極東の島の日出ずる国など、甘い汁を吸えるおぼこいサッカー後進国ととらえているのであろう。確かにそれは、わが国のメディアの動き、行政の対応などを見れば一目りょう然であるが。
 私が住んでいる関西ではサッカーの話題よりも「今日、阪神試合しとるんか?勝ってるか?」というのがこの最中でもあいさつ代わりであり、サッカーの「サ」の字も出ないのである。さらに関経連会長の秋山氏さえ、ワールドカップよりも阪神タイガースの勝利のほうが経済効果が大きく、またワールドカップのような短期間、瞬時でなく勝利が9月まで続くなら問題にならないほど大きいと記者会見で言い切ってしまうほどである。
 関西のみならず、首都である東京でワールドカップの試合が1つもないことに、この国のサッカーに対する姿勢が分かるというものである。まさにFIFAの鼻持ちならない欧州のサッカー文明(?)と、極東の日出ずる野球の国の文明(?)との衝突、グランドでは民族(国家)同士が衝突するワールドカップと見た。
 この号が届くころ、決勝トーナメント進出チームが決定していることでしょうが、読者の皆さんのごひいきチームは残っているでしょうか?
 この大会で、その存在を知らしめ経済的効果以上の実を得たのは、案外中津江村のみかも知れませんね。それとおとぼけカメルーンチームと。そしてFIFAにはレッド・カードを。(6月7日記)