20020525

失業者の手記

僕も署名活動に参加 行動を大きなうねりに
国の失業対策はおかしい 人間と見ていないんじゃないか

浜岡 恵二


退職から苦悩が始まった

 高校を卒業してから、パン工場の製造現場で約3年間働いていました。しかし、会社が労働組合にも非協力的で社員をあまり大事にしなかったこと、パン製造のラインが重労働で腰を痛めたりしたこと、同期の社員が次々に辞めていったこともあって、このままここにいても将来的に展望がないと思い、「自己都合」で退職しました。
 そのころはまさにバブル経済が崩壊していく時期だったと思います。正直言って、再就職は簡単にできると甘い考えでした。そしてその年のうちに大手食品乳業会社に採用され、とてもよかったと思いましたが、約3カ月の短期間で退職しました。この退職からが、私のいろいろな意味での厳しい闘いや苦悩の始まりでした。
 まず直面したのは、友だちを信用できなくなってしまったことです。高校の同期生で同じパン工場で働いていた友人がいて、彼とはいろいろな話をしたり、旅行にいっしょに行ったりしていました。それがたった1日で、まったく別人のように見えてしまったのです。
 彼はある宗教団体に入っていて、「ここに入れば仕事がすぐ見つかる」とか「両親と縁を切れ」などの到底理解できないことを言って勧誘してきたのです。その場で絶交しました。とても悲しかったです。そして、しばらくの間は、仕事のことも含め、何をどうしていいのかわからない生活をしていた時期がありました。
 ある程度、精神的に楽になってから仕事を探し出しましたが、なかなかいい仕事が見つからず悩みました。なんとかアルバイトの仕事があったので、そこで1年2カ月ぐらい働きました。この仕事を退職してからは、私にとってさらに苦悩を深めることになりました。
 1番困ったのは、もちろん仕事が思うように見つからないことですが、両親と暮らしていたので、ケンカすることも多くあり、精神的なストレスでうつ病になってしまいました。また1種の過食症になってしまって、急性すい炎で手術も受けました。今も定期的に通院しており、完全ではありませんが、健康にはなったと思います。

国会座り込み行動に参加

 仕事は長く続かず、ほとんど働いていないようなもので、恥ずかしいやら、情けない思いもありますが、どういう形であれ1日も早く仕事につきたいと思って、職安などで求職活動をしていました。そして、本当に偶然に失業者ネットワークの人が、失業対策の充実を求める署名活動をやっているのに出くわしました。
 その人には私の話をいろいろ聞いてもらい、「立場は違うにしろ、あなたと同じように仕事を探してもなかなか見つからない人がたくさんいる。現在の状況を少しでも打開するために、いっしょに行動しよう」と、翌日の連合主催の国会座り込み行動に誘われました。
 政党も労組もみんな口では「失業・雇用対策が重要だ」とは言いますが、どれだけ具体的な取り組みを行っているかは疑問です。しかし、こうした行動が大きなうねりになるんじゃないか、と思って参加しました。
 国会座り込み行動には、東京、神奈川、埼玉の失業者ネットワークの人びとや地方議員の方などもいっしょに参加し、失業者の代表の方が、非常に厳しい現実を訴えられました。連合からも各県代表が次々に厳しい現状を訴えられました。 政府与党以外の国会議員も激励に駆けつけて次から次へあいさつ。私は「本気で国民のために仕事しているのか?」と疑問をもちながら聞いていました。

助け合う気持ちがいちばん大切

 その後、私も署名活動に参加しました。私が参加したほうが、少しでも同じ立場にある失業者の人の気持ちを理解することができると思ったからです。私の呼びかけで5,6人の人が署名に応じてくれました。
 想像以上に深刻な状況を実感しました。失業者は、精神的に追いつめられり、自殺に追い込まれたり、とても厳しい現実をかかえていますが、国は「自立してがんばれ」などと言います。しかし、受け皿になる仕事がないし、そもそも生きるか死ぬかという人に、ろくな対策もせずに「がんばれ」というだけの国はおかしいと思います。失業者を人間と見ていないんじゃないかと思います。
 特に印象に残ったことがあります。30歳代の男性で、中学卒業後、パチンコ店で5年以上の経験をしてきたのに、いきなり退職を強いられたそうです。その後に行った面接などでも、太っているから駄目だとか、30歳なので無理だとか、顔がこわいだとか、中卒だから駄目だとか、根拠のない差別を受けてきたそうです。
 とても悩んでいたので、とにかくいっしょに国会に行っておかしいものはおかしいと訴えようと勇気づけ、失業者ネットワークに参加して、お互いに助け合いましょう、と呼びかけました。彼は国会行動にも参加したいし、集まりなどがある時にはぜひ連絡をくれ、と言ってくれました。
 最後に、1つだけ言わせてください。仕事やお金も大切ですが、人のつながり、お互いに助けあう気持ちをもつことがいちばん大切なことだと、私は思います。