20020515

映画紹介 監督・姜文(チアン・ウェン)
日本占領下の中国農村描く

「鬼がきた!!」

 

 この映画の舞台は、日本に占領された中国の寒村。日本軍を恐れて汲々と生きる農民たちが、降ってわいたような事件に右往左往する人間模様と、日本軍の残虐な侵略行為をありのままに描いている。2000年カンヌ映画祭でグランプリを獲得した中国映画だ。

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 もうすぐ旧正月を迎えようとする1945年の寒い夜、馬(マー)の家に見知らぬ男が押し入ってきた。マーにけん銃を突きつけて、大きな麻袋を2つ置き、「大みそかにこれを取りに来る。なにかあったらお前を殺す」と脅して、消えた。麻袋を開けたマーはびっくり仰天。縛られた日本兵・花屋(香川照之)と、通訳の中国人が入っていたのだ。
 困り果てたマーは村の長老たちに相談する。村人たちは、大みそかまで花屋たちを隠すことにする。しかし、男は引き取りに現れなかった。日本軍の目を恐れながら、村人たちは2人を隠し続け、半年が過ぎてしまった。はじめは凶暴だった花屋も、人間らしさを取り戻していく。花屋は村人たちに、世話をしてくれたお礼に穀物を贈るように、上官にかけあうと約束した。
 花屋が村人を伴って日本軍の司令部に帰ったのは8月15日のことだった。上官は穀物を積んだトラックを連ねて村を訪れ大宴会を開くが、その場は殺りくの修羅場となり、村は焼き尽くされた。運よく難を逃れたマーは、怒りに燃えて日本軍収容所に向かう……。

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 迫力あるモノクロ映像が、まるで記録映画を見るような生々しさを醸し出している。前半の村人たちと花屋とのやりとり、村人が責任を押し付けあう様などは、コミカルで爆笑ものだ。売国奴にはなりたくないが日本軍にも逆らえない、善良な村人たちの心理描写が、実に繊細で巧みだ。
 後半の日本軍人の登場から、雰囲気は一変する。それは、消し去ることのできない歴史の再現となる。日本軍に戻った花屋は、人が変わったように再び凶暴となった。ラストは、観客の楽観をみごとにうち砕くことによって、戦争の凄惨(せいさん)さを強く印象づける。
 また、米兵に守られた国民党将校に命じられて、日本兵が中国人に刀を振るうシーンだけは、突然カラー映像に変わり、現実味をおびる。このシーンは、現在の国際関係を鋭く風刺したもので、日本の軍国主義復活に対する中国人の根強い警戒心が感じられる。
 中国人は侵略者日本を「日本鬼子」と呼んだ。鬼=日本軍というイメージは、今も中国人の心に強く焼き付いている。この映画は、「鬼子来了」という原題が強烈すぎるということで中国では公開されていない。
 ちなみにマーを演じているのが、監督の姜文だ。彼は「紅いコーリャン」に主演した俳優だが、若手監督としても活躍している。長老を演じる俳優たちの重厚な存在感も得がたい。香川も、農民出身の日本兵の雰囲気を、うまく出している。
 この作品にあふれるブラック・ユーモアは味わい深く、戦争と人間の狂気、日本の中国侵略を強烈に批判している。 残念ながら、この映画を上映しているのは、東京だけである。日中国交30周年を迎えた今、多くの日本人に冷静な目で見てもらいたい作品だ。(U)

東京・新宿武蔵野館で上映中