20020215

これがトップクラスの賃金?

労働者競わせ、会社は最高益

賃上げ要求 たったの690円

自動車労働者 青山 元


 始業前に職場委員のP班長が、「今日の休憩時間に職場会を開きますから、食事のあと休憩所に集まってください」と言ってきた。
 「おう! 春闘の要求案討議かい? それじゃあ、資料をくれ」と手を出すと、「作業中に読むと人事からチェックされるので渡せない」と言う。もっとも、すでに数日前の新聞でも大見出しは「昨年実績下回る要求」とあり、組合の要求額は昨年より1500円少ない過去最低の要求額だと報道されており、「会社がこんなにもうかっているのにおかしいぞ」と今朝も皆で会社と組合幹部の悪口を言っていたところだった。
 実際、会社が発表した2001年度3月期決算は、連結益で9722億円となり、史上最高となった。また、連結経常利益は1兆500億円となる見通しである。この会社の幹部は、「首切りは経営者の責任で最後の手段だ」と発言している。世間では、経営者の鑑(かがみ)のようにいわれているが、実態は不況を口実に労働者に「首切り」をちらつかせ、低賃金でこき使い、下請け企業には30%のコストダウンなどの多大な犠牲を押しつけて高収益をあげているのだ。
 さて、休憩時間の職場会で、職場委員のP班長から組合の賃上げ要求案レジュメが配られると、一同真剣な顔つきになって計算をし始めた。職能給が導入されてから個人個人の賃上げは同格、同年でも要求額から大きな差があり、組合のつくった計算式にそれぞれが職層、年齢、昇格年度などによる要求額を当てはめて、初めて要求額が分かるのだ。電卓を出して計算している者もいる中で、すっとんきょうな声をあげたのはAさんだ。  「俺は690円だ!」。Aさんは勤続三十年以上のベテラン班長だが、計算式ではこうなってしまうのだ。かわいそうでだれも彼の顔をまともに見られない。一方、最近班長になったばかりのPは30歳代だが昇格加算金もあって、8090円の要求額になるという。当然、Aさんの方が仕事はできるし、職場の力関係から考えても優劣は歴然としているのだが。
 会社と組合は「やる気の出る賃金」、「成果主義」、「過去の実績は評価されない、今が問題だ」などとカッコいい言葉を並べるが、実態は中高年労働者を実質的にリストラし、低賃金で労働者全体をコキ使い、賃金格差をさらに拡大させ、労働者同士を争わせ、職場の人間関係、団結を破壊して、さらに搾取と収奪を強めているのだ。なおかつ、中高年者には「60まで現役」とおだてて、従来行われてきた55歳到達時での現場作業からの離脱を認めず、60歳の定年までライン作業でコキ使うときたもんだ。
 世間では「ひとり勝ち」とうらやまれ、好況企業、優良企業の見本のように見られ、労働組合と会社は「日本のトップクラスの高賃金」と宣伝しまくっている。しかし、資本主義のこの国ではいつも労働者は搾取され続けているのだ。
 Aさんの発言に一同同感した。「日本一の賃金なら、かーちゃんがパートで働くわけないだろ!」