20011125

国の医療の貧困さに怒り
C型肝炎感染は国の責任

患者を何回切り捨てる気か

東京・福島 龍一


 「見かけによらず健康」を自慢していた私が、月二回のわりで病院に通うようになって、はや半年になる。
 病名はC型肝炎ウイルスによる慢性肝炎。治療せずに放置すると、ほぼ確実に肝硬変に、約四割の確率で肝臓ガンになる慢性疾患である。血液を通して感染する。
 感染しているのが分かったのは偶然だった。無料定期健診で、生まれて初めて胃カメラ検査をしたからだ。事前の感染症チェックで、C型肝炎ウイルス感染が分かった。
 慢性肝炎は、肝硬変にともなう疾患(動脈破裂など)が顕在化しない限り、感染していることはほぼ分からない。「疲れやすい」「肩がこる」程度の自覚症状ゆえに、見過ごす人が多いのだ。
 一般にいわれる感染の原因はさまざまだが、多くは、手術時の輸血や予防注射時の針の「使い回し」によるものだ。中には、ウイルスが含まれる血液製剤を使用して感染した例もあり、これは裁判になっている。うっかり注射針を刺して感染してしまった医療労働者もいる。この場合、労災はほとんど認められない。肝炎は潜伏期間が十年以上と長いので、分からないからだ。
 私は生まれてこのかた、二度、手術で輸血を受けた経験があるので、以前から「感染しているかも」と思っていた。だから、感染が分かっても不思議とショックはなかった。
 ショックだったのは、病気になったことでいろいろ調べた結果で分かった、国の医療行政の貧困さであり、無責任ぶりの方だ。
 まず、感染原因の一つとされている、注射針の使い回しだ。厚生省(当時)は、私が生まれる前の一九五〇年代には、すでに使い回しをやめるよう行政指導を行っていたという。だが、教育現場での集団接種などではずっと後まで守られなかった。その意味で、行政の怠慢が、膨大な感染者を生んだともいえる。
 また、C型肝炎治療薬のインターフェロンは効果はあるものの非常に高価で、半年注射を継続すると、百万ー二百万円の治療費がかかる。しかも、わが国では、インターフェロン注射を半年以上継続するには、非常に高いハードルがある。最近の研究では、継続注射の有効性が指摘されているにもかかわらずだ。つぎつぎと発表される新型治療薬の認可が遅れ、なかなか患者の手元まで届かないという問題もある。 
 
石原行革で補助制度改悪

 さて、私の治療だが、月に一度の採血検査で病気の進行を調べ、あとは、副作用の少ない「ウルソ」という薬で治療を行っている。これは、実際から言えば、「病気の進行を抑える」程度のもののようだが…。
 インターフェロン治療も考えたが、私の場合はウイルス数が多く、またインターフェロンが効きにくいタイプということで、見送った。インターフェロンは、不眠、吐き気、うつ病、脱毛など、非常に副作用の強い薬なので、「見送り」が決まったときは、正直、「ヤレヤレ」と思ったものだ。
 もちろん、費用の問題もある。現在の治療程度でも、月に七千ー八千円の出費になっいるのだから。
 先日、医者から「半年たったので、保健所に行ってみてはどうですか。東京都から治療費補助が出るはずですよ」とアドバイスされた。月二千円を超える治療費について、補助金が出るというのだ。
 その足で保健所に行くと、「機構改革で、窓口は区役所に変わりました」とのことである。「こんなところにも行革が…」と思いながら、区役所まで歩くと、窓口は「障害者福祉課」であった。
 そこで治療費補助の申請書をもらい、家でじっくり読んで驚いた。医者は「半年で認められる」と言っていたのだが、申請書には「肝臓の異常が一年以上継続していること」という条件が明記されている。なんと、補助をもらえる条件が半年から一年と、大幅に厳しくなったわけだ。
 もっと頭にくるのは「異常が継続」というところだ。肝臓は非常に微妙な臓器なので、検査結果は、毎月同じ数値を示すわけではない。血圧のように、体調によっても変動するのだが、月単位でみれば、三ー四カ月のサイクルで上下動を繰り返す(景気の循環に似ている)。私の場合も、肝臓が健康な人と同じ程度の数値を示す月もあれば、明らかな異常値という月もある。それを繰り返しながら、徐々に悪化していくわけだ。
 だから、一年であれなんであれ、異常が明確に継続するということはなかなかない。たまたま検査した時期が、上下動の「谷」に当たっていたら、その人は補助が受けられないことになる。
 こうした、いかにも病気の実態を知らない「役人の作文」の結果、補助を受けられる患者は大幅に減っているという。説明するまでもないが、この改悪を実行したのは、かの石原都知事である。
 C型肝炎は「二十一世紀の国民病」といわれ、一説では、潜在者を含め四百万人の感染者がいるといわれる。行政の怠慢で感染し、行政の身勝手で多額の治療費を負担しなければならない多くの患者。この国は、患者を何回切り捨てれば気がすむのか。「薬害エイズ」とはケタ違いの患者数は、この国の医療の貧困さを象徴しているのではないだろうか。

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