20011115

映画紹介 行定 勲 監督「GO」

民族差別を真正面にすえた力作

在日青年の怒りと熱情描く


 「民族、祖国、国籍、差別、侵略、奴隷…団結」・高校生・杉原(窪塚洋介)のこんなつぶやきから、この映画は始まる。
 杉原は日本で生まれた朝鮮人。中学までは朝鮮民族学校で学んだが、学校はじまって以来の「できの悪い生徒」だった。
杉原は小さいころから元ボクサーの父親(山崎努)にボクシングを習い、腕っ節には自信がある。自分の殻に閉じこもるのではなく、まわりにある壁を突き破って生きるために、父親はボクシングを教えた。
 中学時代は、友達とつるんで暴れまわり、警察と格闘することもしばしばだったが、父親にだけは勝てずにいた。母親(大竹しのぶ)は焼肉店で働いている、何事にも動じない楽天家だ。
 杉原は広い世界を見るために、自分で選んで日本人の高校に入った。しかし、人間は簡単に変われるものでもなく、高校でもけんかばかりしていた。この映画は、そんな杉原が日本人少女・桜井(柴咲コウ)に一目ぼれする「恋愛に関する物語」だ。
 親友のジョンイルは、杉原の恋愛の行方を心配していた。彼は民族学校一の秀才で、民族学校の先生になって日本語で落語をやることが夢だ。ジョンイルはある日、地下鉄の駅で日本人学生に声をかけられて困っている民族学校の少女を助けようとして、思わぬ事件に巻き込まれてしまう…。

*   *

 こんなに歯切れのよい日本映画を見たのは久しぶりだ。日本社会に陰湿にはびこっている民族差別を、ものおじすることなく、真正面からとりあげた力作だ。社会問題を分かりやすく、ストレートに、苦しむ側の立場に立って取り上げた映画が登場したことに、時代の変化を感じる。 
 映画では民族学校での生活も描かれる。堅物の先生に反抗する子供たち。彼らは差別に負けているわけではない。日本人と堂々とわたりあい、朝鮮人として誇りをもって生きている。そんな子供たちを、親たちは温かく見守っている。
 しかし、桜井とつきあい始めた杉原は、自分が朝鮮人であることを伝えようとするが、その言葉が出てこない。「日本人ではない」と告げるまでの長い沈黙は、日本社会の現実を凝縮した、印象深い一コマだ。
 「在日」と呼ばれることへの怒りをぶちまける杉原の言葉は鋭い。「俺が国境をなくしてやる」との叫びは、説明のつかない偏見に捕らわれている古めかしさを、若者たちが打ち壊していく可能性を予感させる。
 映画の中で全力で疾走する若者たちの姿は、これまでの価値観をふきとばして、新しいものに向かうエネルギーを発散させている。それは、重いテーマをラクラクと映画にした制作者たちの思いでもあろう。
 山崎、大竹、窪塚が演じる家族が楽しい。ハラハラ、ドキドキ、笑って、泣いてホッとする。そんな見ごたえのある、超おすすめの作品だ。(U)

全国東映系劇場で上映中

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