20011115

「倒産は時間の問題だ…」

大企業にしぼられる孫請け

トヨタのバカ野郎!

金型製造労働者 佐藤 義治


 私の職場は、零細の金型会社です。社員は社長も事務の奥さんも含めて五人という、零細企業です。ここに働き始めて二十年になります。
 さて、この不況の中でご多分にもれず、会社は厳しい状態にあります。「いつ倒産してもおかしくない」というのが実際です。
 仕事ですが、自動車会社の金型が中心です。自動車会社の下請会社から私の会社に注文が来て、それに合わせて樹脂型(プラスチック成型)をつくっています。その仕事ですが、注文の絶対量が減っています。自動車会社は、リストラの一環として部品の共通化などで、金型の数そのものが減っています。以前は、一つひとつに金型をつくっていましたが、部品の共通化でかなり金型数が減らされました。そのあおりで、会社の仕事は減るいっぽうです。
 その上に、納期が短くされています。納期が短いということは、長時間残業であれ、休日出勤であれ、どんなことをしても期日までに完成させ納品しなくてはなりません。もし、納期を守れなければ、次からは仕事が来ません。そうなれば、どうにもなりません。つまり、倒産です。
 また、仕事には波があり、忙しい時期と仕事がない時期の差が大きく、それが常態化しています。以前は、波があると残業が増えて仕事が荒っぽくなり、製品の精度が落ちるので避けていましたが、いまはそんなことは言ってられないのが現実です。取引のある工場でも仕事がなく、一週間も社員が遊んでいることがあり、困ったと聞きました。
 そういう状況が続いていましたが、ここ一、二年の間に中国への発注が急増しています。業者間での話で仕事をもらっている会社から「中国の会社と競争できる見積もりを出してください」と言われ、社長の頭は真っ白になったそうです。「そんなこと出来るわけがないだろう」と言いたかったそうですが、言えば仕事が来ませんから、だまっていたそうです。
 こんな具合ですから、採算割れになっています。これまでは、「あそこは危ないね」などと話していましたが、いまは「うちは危ない」というのが口癖です。そして、実際にやりくりがつかないので社長から「悪いけど、給料を減らしてくれないか」との話がありました。そして、基本給が一割カットされました。しかし、基本給のカットは残業代などにも響きますから、実際には給料の二割ぐらいが減ったのが実際です。
 先月は残業が減ったこともありますが、手取りで五万円も減りました。家に帰って女房と話しても、これまでは「社長に文句言って、減った分は社長にかぶってもらいなさい」と言っていましたが、最近は「つぶれて収入がなくなるよりは、まだましかな」となかばやけくそです。
 いずれにしても、このままでは会社はやっていけなくなると思います。社長の口癖も「倒産は時間の問題だろう」になりました。社長と私は労資関係にありますが、零細企業ではそんな労資関係などいってられません。実際に社長も大企業にいじめられて苦しんでいます。
 また、納品しても手形は「まわり手形」といって、中小零細では、結局やりくりしており、手形が関係のない会社のものが来ます。その手形を持って銀行に行くと、銀行側は「どうして金型会社に食品会社の手形が」とびっくりします。同時にこの手形は大丈夫かと、不安になるそうです。そうなると、銀行も警戒して融資の話などすぐに断るようです。
 結局のところ、大企業がボロもうけしている陰で、私たちのような零細企業は労資一体で苦しんでいます。トヨタが一兆円も利益を上げたと新聞でも見ましたが、いったいそのために何人の人が自殺したり、夜逃げしたりしたと思っているのか。私の会社のそばでも倒産・夜逃げをしたところがあります。うちの会社もいつそうなるか分かりません。十二月の仕事のメドもたっていないのが実際です。
 しかし、私たち零細企業が倒産しても当たり前のようになっていて世間の注目も集まりません。ここまで来ると社長ともども、大企業の前で文句の一つも言ってやりたいのが、いまの気持ちです。トヨタのバカ野郎!

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