20011105

ロンドンで見た反戦運動

あなたは何ができるの?

WHAT YOU CAN DO

鈴木 信孝


 米国での同時多発テロ事件が、私に予期せぬ体験を与えてくれた。娘を訪ねて英国滞在中、折しも米英によるアフガニスタンへの報復攻撃が始まった。ロンドン市内でも前日までと違って公的施設や空港の警備は強化され、銃を手にした兵士の姿が見られるようになっていた。
 ヒースロー空港が報復テロに備えて閉鎖になるという情報を娘が知らせてくれたので、私はその後の日程をキャンセルし、急ぎ帰国することとなった。空港での警備は尋常ではなかった。引き金に指をかけた兵士の隊列を横目に何度かのチェックを受けてからも、機内持ち込みの手荷物は開封され、一つひとつ点検されるというものものしさであった。
 日本では、テロ事件に対する英国の人たちの意識はあまり伝えられてはいない。ブレア首相は米国のアフガンへの武力攻撃にいち早く支持を表明し、軍隊を急きょインド洋に派遣した。一方マスコミは連日、女性ジャーナリストの「イボンヌ・リボレイさん」がタリバン政権に不法拘束されたとして、同情をあおりながら「タリバン憎し」の論調を大々的に報じていた。
 その矢先の八日、アフガンへの軍事攻撃であった。これに対する一般の英国人のブレア首相への支持率は、小泉には及ばないが六〇%だと、英国の新聞が伝えていた。
 だが、階級意識の強い英国では、下層階級の反ブレアの意識は強い。
 そのことを裏付けることとして、ロンドン市内の駅頭では『STOP THE WAR』を訴える人びとがビラを配ったり、議論したりする姿があちこちで見られたこと。また、CNDという市民団体は十月十三日にハイドパークでの抗議集会に参加しようと、署名とカンパを訴えていた。
 その場に集まっていた若い学生や女性が通りすがりの年輩の人たちも巻き込んで、熱っぽく議論している姿が印象的であった。
 やはり一般市民の意識はマスコミの論調ではなく、その場でもらったビラにも書いてあるとおり「WHAT YOU CAN DO」の呼びかけにこたえるロンドン市民の姿であろうと強く感じた。残念ながら参加できなかった十三日の抗議集会(デモ)が大きなうねりとなることを確信しながら、私は機上の人となった。
 米国への同時多発テロ事件は、米国による一極集中経済のもろさを露呈させ、圧倒的軍事力を背景に世界の警察官を自認する米国の威信を一瞬にして失墜させた。米国が国益を優先させ、イスラム諸国、国民への犠牲と抑圧を強行してきた歴史が、今回のテロ事件の背景といえる。
 テロの犠牲者を冒とくするつもりはないが、事件の背景を考えるとき心の中で小さな拍手を送ったのは私だけだったろうか。

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