20011105

牛は狂い、人は恐怖する…

政府のいいかげんな対応

「共食い」の悲劇

流通労働者 中里 芳恵


 今年九月十日発表された、「狂牛病」の疑いのある牛が千葉県で一頭見つかったというニュースは、米国の同時テロの狂乱報道にかき消されたかに見えた。しかし、牛乳や牛肉、原材料に牛に関する物質が含まれる食品の消費低迷となって、景気の冷え込みに拍車をかけている。
 今回の行政の対応は、焼却したはずの該当牛が実際は「肉骨粉」に加工されていたことに見られるように、きわめてずさんで、消費者の不信を買っている。
 日本政府は、九六年に牛飼料に対して「肉骨粉」の使用禁止を通達しており、国産牛は安全だといいはっていた。しかし、欧州連合(EU)委員会は、昨秋からの「第二次狂牛病パニック」を受けた調査で、今年四月に「日本は狂牛病危険度レベル3」と警告していた。英国の「肉骨粉」の輸出量からの算出で、すでに人間の発症者の出ているドイツやフランスと同レベルの危険とされている。
 この発表を日本政府は妨害したといわれ、マスコミで取り上げられることもなかった。実際は、輸入された肉骨粉が鶏や豚だけでなく牛の飼料として使われていたことになる。
 「狂牛病」は、本来草食動物の牛に、異常プリオンというたんぱく質に汚染された動物をえさとして食べさせたことにより蔓延(まんえん)した。牛に、牛や羊の肉や骨を加工して「濃厚飼料」として食べさせたわけで、「共食い」を強いたことになる。
 この病気は種を超えて哺乳類全般に感染する。豚や鶏に感染しないといわれているが、豚の場合は長く飼育されていないので、発症していないだけだともいわれる。
 牛の生理にあわせて、まじめに飼育している酪農家にとっては迷惑な話である。また、これまで安全性を追求して国産牛の産直に取り組んできた生協や消費者団体にとっても、とても迷惑である。人が「狂牛病」を恐れ牛肉の消費が低迷することにより、まじめな酪農家や流通業者が被害をこうむっている。
 今回の政府のいいかげんな政策が、消費不況を引き起こすひとつの要因となり、消費者の「恐牛病」を引き起こしている。

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