20011025

得意先の焼き肉店も廃業
零細卸業は超大変

狂牛病の被害は甚大

食品卸業労働者 本田 友幸


 狂牛病の影響で、肉販売店や小売店、焼肉店の売り上げが三割、四割減少という記事が、連日新聞に載っている。スーパーは今までの牛肉コーナーを小さくして、豚や鶏肉を多くして乗り切ろうとしているので何とかなるかもしれないが、焼肉屋や生肉専門店は大変な事態。私の働いているところは、冷凍庫の中に冷凍牛肉がたまっている。
 私は、役所や病院、企業の食堂から町の小さな食堂などへ食材を配送する仕事をしている。朝八時から商品を積み込み、昼休みもろくに取れないままトラックを走らせて、帰社するのが午後六時を過ぎる日が続いていた。
 狂牛病騒ぎで、少し離れた地域にあった焼き肉店が廃業したため、トラックからは五時前に降りている。社長の気持ちは穏やかでないが、おかげさまで仕事はかなり楽になった。昼休みも取れるようになった。
 会社は冷凍肉(牛肉、豚肉、鶏肉…ほとんどが輸入品)、冷凍魚介類、冷凍野菜、冷凍加工食品(ハンバーグやコロッケなど…国内産の牛肉を使っている)を主に扱っている業務用卸専門店。野菜と酒以外は店から注文があればそろえて配達する。近くのスーパーや生肉店に買い物に行くこともしばしばで、仕入れ値のほうが高い商品がいつもトラックの中にある。 マイナス二〇度近い冷凍庫の中から品物を積み出し、配送先によってはマイナス二〇度近い冷凍庫の中に納品するために、トラックには分厚いジャンパーが置いてある。いくら厚いジャンバーを着ていても三〇度の気温から、いきなりマイナス二〇度近い気温に入るのはきつい。
 ハムやベーコンの一キロの注文から、数十キロの肉や冷凍加工食品の配達までやっている。私が担当しているのは三十数カ所、ここ三カ月であらたに三カ所が増え、五カ所の配送先がなくなった。三つは他の業者に取って代わられた。
 二カ所は廃業で店をたたんだ。その内ひとつは狂牛病騒ぎで廃業した焼き肉店。月に二十万円以上の肉を卸していたので会社にとっては大変痛い。狂牛病騒ぎが起きた時、お客がまったく来ないと嘆いていた店長。その翌日からまったく注文が来なくなり、一週間後には店をたたんでもぬけの殻、十人近い若者がアルバイトで働いていたが…。
 中小企業の分野に大手卸業者も入ってきているから、競争が激しくなっている。十円、二十円値段が高いといって他の業者に取って代わられ、社員数人の零細企業は超大変。給料は今以上に下げようがない(手取りで二十万円ちょっと)ほど低く、労働時間は長くなるばかりだ。私は八時から六時まで働くが、残業手当もないので、それ以上働かないことにしている。
 社長や役員は五時、六時の早朝から夜の七時、八時まで働いている(社長に付き合っている仲間もいる)。社長と仲良くなる必要もないが、社長といっても創業者ではなく小さな食品卸会社から出向で来ている労働者のようなもの。会社のモットーは家族のような付き合いというが、家族労働のようになっては大変だ。かといって零細企業では、気まずい雰囲気では働きづらい。
 ほとんどが未組織で労働運動には関係ないような業界だが、この業界で生計を立てている労働者や経営者も相当数いることも事実だ。零細の卸業がこの不況の中で生き残るのは大変だということを、実感する毎日だ。

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