20011015

アジアの街角から(9)

マニラの人材育成の切り札

海援隊21(海外展開企業等を支援するネットワーク組織隊)
代表幹事 牟田口 雄彦


 フィリピンは自由の国である。したがって、前回紹介したように、自動車もジープニーのように自由に製造し、一定の運行路線の認可をとれば自由に営業できる。車検もない。
 ガードマンは、機関銃まで持っている。警官が銃を持ち、一般市民は持たないということはこの国ではない。許可をとれば自由に銃が持てる。私の同行のガイドも所持しており、家に置いているという。彼は、「スポーツとして使っているよ。射撃の練習はそう快で楽しい」と屈託なく答えてくれた。
 しかし、意外とピストルを使っての「コソ泥」のような犯罪は多いが、殺人までの重大犯罪は少ないようだ。交通事故も小さな事故は多いが、急がない国民性か、渋滞の故か、死亡事故や重大事故は少ないようである。
 この国は、大学の設立も自由のようである。六百もの大学がある。うち、理工系大学からエンジニアが毎年三万九千人も卒業する。もちろん、英語は公用語なので話せる。そして、初任給は一万八千円が平均である。したがって、世界的なマーケットで活躍する日系企業は、安いエンジニアを狙って数多くこちらに進出してきている。
 また、安いだけでなく、フィリピンの労働者は、勤勉で向上心が高いとの世界的な定評がある。確かに、ある日系企業に聞いたところ、日本語を一年程度でマスターする若者も多いそうである。人口もいまだに毎年二・二 %も増加しており、当分豊富な労働力が続き、不足する恐れはなさそうである。
 政府も、雇用確保に大変な力の入れようで、アジアの中で停滞する経済を何とか、回復するためにも、日系企業の進出を促進して、優秀な労働者や経営者の育成に努めはじめている。
 従来からこの国は移住を好む国民性があり、豊かになるためなら、どこへでも行く人たちである。特に優秀な若者の夢は、米国移住であると聞く。これを何とか政府も阻止して、経済を成長させたいのである。
 新たな投資を呼び込むため、経済開発区庁「PEZA」があるが、ここでは何と「八年間、進出企業は法人所得税の無税」という特典が認められている。ここの女性長官に現地でお会いしたが、訪問時刻が午後八時に伸びてしまったにもかかわらず、職員全員が出迎えてくれ、「私たちは、二十四時間体制で進出企業をサポートします」との説明の意気込みに圧倒された。
 さらに、先頃(九月中旬)アロヨ大統領が来日されたが、この時にお会いした随行の経済閣僚のお話では、この期間を十二年に延長する予定とのことで、驚愕(きょうがく)してしまう。
 日本から四時間の地理的な条件の国に、このような国が存在することは、日本の労働者にとって驚異である。
 マニラの街角から日本を見ると、今後、国際戦略として、日本はどのような人材を育成して、アジアで尊敬を得る豊かな国づくりを行うのか、既に猶予された時間はなくなっていることを感じる。少なくとも、二十世紀型の「国内ものづくり輸出型経済」が終焉(えん)を遂げつつあることだけは確かである。

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