20010825

中国で遭遇した
「オリンピック北京開催」決定(1)

TV見ないとなぁ

今宮 浪虎


 筆者の今宮さんは一九七二年生まれ。日中国交正常化の年に生まれたわけで、来年三十歳を迎える。彼は六月二十日から七月十七日まで出張で単身中国を訪れ、建設資材を中国から輸入するための商談で各地を回った。このとき山東省を移動中の列車で「オリンピックの北京開催」決定という劇的なシーンを体験した。以下はその報告である。

 今日は二〇〇一年七月十三日だ。山東省にいる。夜の十時には必ず青島郵電賓館(ホテル)に戻ってこなければならない。
 TVを見なければいけないのだ。前回の失敗から数年、僕の第二のふるさと、青春時代を過ごした北京が懲りずに二〇〇八年のオリンピックの開催都市に立候補しているのだ。今夜十時IOCの会議で開催地が決定される。
 ちなみに、僕の地元大阪市も、市民不在で立候補している。
 今日は泰安市に行き、商談をしなければならない。この仕事をこなせば、青島、煙台、北京、上海、無錫、常州、再び青島…と、一カ月も続いた長期出張も終わりだ。
 ビジネス相手は直接輸出権利をもつ工場だ。本来なら工場と直接の関係をもつべきだが、今回は商売上ある考えがあったので、以前国営工場で働いていて現在は青島の商社で金もうけをしている張さんという男性といっしょに来た。
 ここ泰安市には有名な泰山があって、国内観光旅行者が多い町だ。青島より東、山東省の省都済南の南にある。青島から快速特急の〈空調〉つきスーパーシートで五時間。行きは快適な移動ができた。このときはまだ、「さすが張さん! ナイス安排(段取り)」と思っていた。
 旅行者が多いということは、駅前はギラギラした目の司機(タクシーの運転手)ばかりで、だいたい町の空気の想像はつく。「どこ行くねん? 車あるで! どこでも行くでぇ!」としつこい白タクの運転手を無視し(結果的には値切ってそのいちばんしつこい司機の車に乗ったが)、ゆっくりと駅前を歩く。
 青島の経済開放の影響が、港から四百五十キロ離れたこの街でも、いたるところで目に入ってくる。駅前は工事現場が多く、どこが歩道で、どこが作業用通路かわからない。平屋の駅を五階建ての駅ビルに建て替えているのだ。
 泰安市の中心駅〈泰安駅〉は、都市部の一般人の生活レベルが上がったためか、ここに来る国内観光客が増加して〈泰山駅〉という名前に変更するようだ。古い駅舎の〈泰安駅〉という文字と建設中の〈泰山駅〉という看板の両方が存在する。今、観光都市の駅になろうとしている。日本でいうと、日光のような町になるのだろうか? 
 この街は観光都市としての発展の道を選んだようだ。
 この先どうなるのか、だれにもわからない。ただ、泰山を見に来る観光客が増えていることが金もうけのチャンスになることはみんな知っているようだ。
 駅前の広場には、文革時代に解放軍兵士の鑑(かがみ)とされた〈雷鋒〉の像が立っている。
 やっぱり、ここにはあった! 北京、上海、常州、無錫と動いたのに、ほとんど見かけることがなかった黄色い軽のバンタクシー〈面的車〉が現役で走っていた。
 「うおー」僕は喜んでしまっている。学生のとき北京で乗りまくっていた老様子(昔のまま)の〈面的車〉に乗りたい! すでに白タクに乗ってしまった後だったので、悔しい思いをした。
 「面的、乗りたかったなぁ」僕が悔しがっていることを、張さんは察したようだ。「乗り換えますか?」と張さんに言わせないために、その悔しさを隠していたのだが……。
 そうこうしているうちに、工場に着き宴会が始まり、商談、設備視察などのビジネスが始まる。
 以前は中国の国営工場はひどかったが、現在は民間人の管理により、工場は私営化しているところもある。成績=金もうけに気づいた工場の管理はすばらしい。しかし、まだまだほとんどの田舎工場は昔のまま。そう、老様子なのだ。
 矛盾しているが、町の風景は老様子であってほしいが、工場の設備、管理方法などは老様子では困る。この工場は老様子の部類に入る。設備も古いし、仕事せずに新聞ばかり読んでる社員がまだ多い。
 こういったところは、人件費が安いとされる田舎街にありながら、原料から製品までの生産工程でのロスが多いため、商品もそれほど安くはならない。
 「あかんなーここは。管理体制がなってない。ここでしかつくられへん商品は仕方ないとして、その他は違うところから引っ張るか」。もともと国営企業にいて、共産党系の社長を失脚させたあと、民間から新しい社長を招き、三年前まで副社長として生産管理をしていた張さんが言う。
 「張さんは、管理うるさいもんな! 今は商社にいるけど、もともと国営企業の改革派工場幹部やもんな。やっぱり、そう思う?」と僕。発展性からいえばあまり面白くない工場だったので、とりあえず早めに切り上げ、青島に帰ることになった。
 「そやな、TV見ないとなぁ」 (つづく)

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