20010805

参院選/医師会と看護連盟
どちらも医療改悪なのに

票獲得で骨肉の争い

看護婦 岡谷 優香


 この地域では比較的大きな民間の病院が、私の職場です。朝、事務長より各病棟に連絡があり、「その時は各病棟から手の空いている人など、できるだけ多く玄関前に集まるように」とのお達し。その時とは、医師会推薦のT参議院候補が、当病院にあいさつ回りにやってくる時のことで、今日がその日らしい。この忙しい時に、冗談じゃない。わざわざ玄関に何で集まらなきゃいけないの、手空きの人などいるわけがないじゃないなどと、皆でぼやきながら聞き流していました。
 やがて午後、「すぐに玄関前に集合するように」との連絡。みなガヤガヤと集められました。県医師会の役員によるT候補者の紹介、次に病院長の応援のあいさつ、候補者本人のあいさつと、淡々と進みました。何しろ玄関前です。長時間の「決起集会」というわけにはいきません。それに比例区の候補者、こんな田舎の病院で貴重な時間をつぶすわけにはいかないのでしょう、実に手際よく進んだという感じです。わざわざ当病院に立ち寄ったのは、病院長が地域の医師会の会長をやっているからに違いありません。何事が起こったのかと、入院中の患者さんも窓を開けてのぞいていました。
 さて、候補者があたふたと立ち去った後の会話。ある古手の看護婦さんいわく、「Tさんは医者でもないのに、何で医師会が推薦するのかしら。親の七光り、二世候補だからかしら。政治家も二世が多いわね」と批判的な口振り。そこを通りかかった、今年から有権者になったという若い看護婦さんがたずねている。「あの人、本当に候補者なんですか? だって、掲示板にポスター張ってませんよ?」。不思議そうな顔をしている。
 確かに、公営掲示板に比例区の候補者ポスターは張ってない。従ってT候補のポスターはそこにはない。だが、彼女にとって、掲示板にポスターのない人が候補者だということが、なかなか理解できないらしい。選挙区とか比例区とか、まして非拘束名簿方式などといわれても、普通のしかも初めて選挙権を行使する若い彼女には、分かりづらいのは当然です。
 今度はその彼女が、総婦長にたずねている。「総婦長さん、選挙はあの人に入れればいいんですよね?」。それをきいた総婦長は、かなりいら立って声を荒げた。「あなたたち、何度言ったら分かるの。ちゃんと説明したでしょ。あの人ではありません!」
 そうなのです、この総婦長さんは県の看護連盟の役員をやっていて、全国看護連盟推薦のSさんを応援しているのです。しかも相当な熱の入れようで、Sさんの必勝のために、この選挙期間中も勤務をさておいて、名簿集めのために大奮闘しているのです。医師会推薦のT氏に票が流れたのでは、集票目標に足らなくなります。Tではだめ、必ずS、これが何度も言ったという総婦長の説明なのです。同じ自民党でも、非拘束式の方式なので、職能団体推薦の人が当選するかしないかは、団体の力量が問われ、今後の政治的な影響力にもひびきますから、実に激しい骨肉の争いなのです。今度の選挙の特徴でもあると思います。そんな激しい選挙の現場です。
 私に言わせれば、看護連盟か医師会政治連盟か、そのどちらの候補も同じ穴のムジナの自民党です。守旧派の抵抗を退け、医療・福祉・介護の一本化と大改革(改悪)を進めると公言している小泉さんの党にすぎません。そう思うのですが。
 さて、くだんの彼女が、誰に投票したのかは分かりません。「Tではだめ、Sもだめ、職場上司のいうとおりにはやらない!」となっていれば楽しいのですけれども。

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