20010725

土用丑の日

海野 ひろし


 7月25日は土用の丑(うし)の日である。猛暑を乗り切るためにウナギの蒲焼きを、という人も多いと思う。
 蒲焼きの「蒲」は、因幡(いなば)の白ウサギの話に出てくる、ウサギが体の傷を治した「蒲(がま)の穂綿」を意味しているという。
 今は、ウナギを開いて焼くのが普通だが、昔は、輪切りにして串に刺して焼いていた。その形が、蒲の穂に似ているところから、蒲焼きと呼ぶようになったのである。
 これは、蒲鉾(かまぼこ)の語源と同じである。練り製品の蒲鉾は、板に乗せたものが普通だが、昔は竹輪(ちくわ)のような形だった。蒲(がま)の穂に似ているから、蒲鉾と呼ばれるようになったのである。
 ウナギは、少し前まで専門店で食べる少し値の張る料理だった。お客が来たときに、すこし奮発して出前をとったりしたものだった。
 だから、土用の丑の日には、さかな屋の店先で焼いている蒲焼きの前に行列ができたものだった。それが、いつのころからかスーパーなどでも蒲焼きが並ぶようになった。冷凍で輸入された蒲焼きが1年中売られている。しかも、値段はどんどん安くなっている。
 安売りウナギは、中国と台湾産である。大きな1匹分の蒲焼が200円ぐらいの値段で売られていることもある。しいたけと同じである。中国の生産者が日本に売り込んできたのではない。日本の商社が、技術指導をして買い付けているだけである。
 その買い付けにしても、もっと安いところがあれば、いとも簡単に打ち切られる。現地の産業振興のためを考えている訳ではないからだ。
 同じような話が軍手の業界にもある。軍手も輸入が増えているが、国内での生産も多い。ただし、国内の生産地は数年の周期で移動している。
 軍手は、工場で大量生産されてはいない。内職として、軍手を編む機械を材料といっしょに販売する業者がいる。その業者が出来上がった軍手を買い取るのだが、買い取り価格をどんどん下げていく。数年もすると、機械を買い取って生産してきた方もやっていけなくなる。機械を売り込んだ業者は、別の地方に売り込んでいく。こうして、生産地が移動していくことになる。
 安い安いと喜んでいるうちに、巡り巡ってとんでもない高い買い物をしていることになっているのかもしれない。生産者がどんな苦労をしているのか、それを知ることの大切さを改めて感じる。

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