20010715

アジアの街角から(7)

音楽でつなぐ日中友好

海援隊(海外展開企業等を支援するネットワーク組織隊)
代表幹事 牟田口 雄彦


中国へ留学している日本人の学生に聞くと、中国のすさまじい競争社会には辟易(へきえき)するという。中国人の彼女でさえも、恋人の自分に対して、知識、教養の競争を仕掛けてくる。ある時、記憶力競争を仕掛けられた。三十の物事を覚える競争である。日本人の彼は七つ、何と彼女は三十すべてを覚えていたというのだ。
 マイクロソフトのビル・ゲイツ会長と話したことがある人は、彼の卓越した集中力に仰天したというが、何事も優れた人は、その集中力が圧倒的に高いという。中国人は、八%という経済成長の中で、成功のチャンスに恵まれていることが、やる気やチャレンジ精神を旺盛(おうせい)にしていると思える。
 一方、日本に留学している中国人の学生に聞くと、何かもの足りなさを感じるという。自分は、中国にいる時は、友人三人の中で一番成績がよく、国費留学で日本に来たが、数年経過した今、自分はほとんど変化がないが、二番目に成績がよかった友人は、米国で学位を取って高い地位のスタートラインに立ち、三番目に成績がよかった友人は、中国で実業家として成功している。自分の力や運のなさも大いにあるとは思うが、何か、今の日本には、夢や成功のチャンスが少ない、特に外国人には少ないように思える、という。
 そういった声を耳にして留学生を音楽で励まそうと、また、今の貿易摩擦(日本側の農産物のセーフガード、中国側の報復措置)や歴史教科書問題、靖国神社参拝問題などの日中間の憂慮すべき課題が山積する中で、何とか民衆間の交流を深めようと、今年の新年号で紹介した「音楽で絆(つ)なぐ日中友好! 二十一世紀の夜明け」と題する特別演奏会が、六月二日に神奈川県民ホールで二千三百人もの観衆を集めて開催された。
 黎明合唱団は、中国人留学生などの千八百人と日本人五百人の夢の架け橋を築くことに成功した。会場は、日本のコンサートとしては異例の、観客と舞台が一体となる中国での演奏会の雰囲気で開催され、日中双方の思い入れのある音楽や歌声につつまれた。
 過去に、国と国は富をつくり、守るために戦争を繰り返してきた歴史がある。二十一世紀の後半には、人と人が国の垣根を越えて交流しあう時代になったものの、それは、いわばモノクロの交流、言葉、言語による交流が主であったであろう。しかし、二十一世紀は、情報技術(IT)や交通技術や手段、量の圧倒的な進歩や拡大により音楽やフッション、文化、風俗の民衆間の多色刷りの交流が深まると思われる。このことは、軍事産業などの誘導する戦争への誘惑をはねのけることが予測される。
 日置宏江氏率いる黎明合唱団の行った今回の演奏会は、まさにその意味でも、二十一世紀の日中新時代の幕開けを予感させる、日中の演奏会文化の溶け合った興味深いイベントであった。付け加えさせていただけば、二千三百人のほとんどの方が最後まで主体的に参加していたこと、また、この運営がすべて実行委員会方式によるボランティアによるということに感動を覚えた。

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