20010625

らいおんはーととヒトラー

村田 拓(文化活動家)


 小泉純一郎はたしかにコンピュータ時代、高度情報化社会での新しいタイプの政治家で首相である。テレビやインターネットなどIT(情報技術)を駆使して政治をおしすすめていく。それはこれまでの永田町を拠点とする政治のありようを変革することになる。この変革の訴えで国民大衆の八〇%をこえる高い支持率をえて、これまでにない期待をよせられている。
 だが、テレビにうつる自分の姿を意識し、ハプニングをくりかえし、いかにも熱あるかのようなかん高い声で挑発的に語る―これまでになかった大衆的な政治家と見える―のを見聞きすると私たちは、かつての独裁者ヒトラーを想い出す。ヒトラーは新しい時代を画したラジオ、映画といった当時のマスメディアを駆使して大衆を挑発し、働きかけてナチスの支配に追いこんだ。その頃、ドイツの国民大衆は、第一次世界大戦後の不景気、そして世界大恐慌にあえぎ、増大する失業生活の不安にさらされていた。それがナチスをうみだした基盤である。
 今日の小泉首相への異常に高い支持率もおなじように、バブル崩壊後、長く続く不景気とリストラで強行される失業の増大と生活の不安がつくりだしているのであって、国民大衆の誰もが、何よりも景気の回復を願っての彼への期待なのである。
 ところで今、さらに恐ろしいことが始まっている。小泉内閣のメールマガジンの創刊である。すでに百万をこえる国民が登録して受信するという。かつてヒトラーはドイツの国民大衆の中に彼の親衛隊を組織してナチズムを貫徹していった。それとおなじように、小泉首相もまた国民大衆のなかに百万をこえる彼の親衛隊をつくりだしたのである。
 つまり、これによって小泉首相自身が直接に国民に語りかけ、それに応じて国民が直接、自分たちの意見を首相に伝えるという訳だ。小泉首相はこれこそ正に民主的な双方向伝達のメディアだといっている。
 だが登録した百万の国民はもともと小泉の支持者たちであって、批判的な人たちは誰も登録しない。この関係では、小泉首相を支持し彼に迎合する意見は伝えられても、対等の立場で批判的な意見を伝えるという真の対話はありえない。双方向のメディアで、むしろ首相の意見を貫徹するために一方的に伝えられるだけである。そして親衛隊となった彼らの声が国会での自由な討議への圧力となり、そこでの小泉批判を攻撃する暴力になっていくのは明らかである。
 新時代の新しいタイプの政治家である小泉首相は、実質はもともと自民党のタカ派=国家主義者だ。靖国参拝、自衛隊を軍隊とし集団的自衛権を行使して戦争に参加し、教育を改悪し、そのために憲法も改悪する。その意図を明確にもっている人物なのだ。私たちはそれに負けずに、しっかりと自分の考えをもち真に民主的な平和への道を歩まなければならない。

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