20010625

映画紹介 監督・編集 野中 真理子
記録映画「こどもの時間」

子供の豊かな心を描く


 鼻水がたれたまま、手づかみで焼きたてのサンマにかじりつく。裸足で大地をかけまわり、泥んこになって遊ぶ。手作りのプールに勢いよく飛びこむ。紙芝居を食い入るように見つめる目。節分の鬼を見て泣き叫ぶ子供…。ここは、埼玉県桶川市にある「いなほ保育園」。4千坪の広大な敷地には、畑や牧場もあり、ゼロ歳から6歳の子供たち100人の歓声と泣き声、歌声がこだまする。
 この映画は、自然に囲まれた環境の中で運営される「いなほ保育園」の1年を記録したものだ。子供たちの豊かな心と、躍動するエネルギーが画面いっぱいにあふれてくる。
 映画では、2歳ぐらいまでの幼児たちの姿が印象に残る。手づかみで自力で必死に食べる姿は、食べることが生命活動の基本であることをあらためて教えてくれる。
 また、幼児たちの感性の鋭さに驚かされる。窓の外を眺めていた幼児が、土ほこりを巻き上げた風を見つけて驚いたように指をさすしぐさ。水道から流れ落ちる水を手に受け止めて、不思議そうにじっとみつめるまなざし。雨にうたれながら何かを感じている女の子。自分がつくったエサをヤギが食べるのを見ながら、腕組みして観察する男の子……。幼い子供たちの目に映る世界は、驚きと発見に満ちた世界だ。言葉を持たないこの時期の子供にも、豊かな心があることに気づかされ、ハッとさせられた。
 こうした中で子供たちは言葉を覚え、泣いたり、笑ったり、悲しんだり、怒ったりしながら仲間をつくり、社会性を身につけて成長していく。監督の野中真理子さんは、「この作品を見てくれた人が、見る前よりも子供の存在を身近に感じてくれれば、とてもうれしいです」と語っている。
 この保育園はとてもユニークで、目をみはらされる。しかし、どんな境遇にいる子供たちも、この映画に登場する子供と同じように、無限の光を発していることを、この作品は教えてくれる。子供たちをしっかりと見つめ、そのエネルギーに気づき、子供たちの心の声に耳を傾けることができるのか。問われているのは大人の側だ。
 かつて自分も子供だったことを忘れたり、忘れそうになっている大人たちへ、メッセージがいっぱい詰まった作品だ。(U)

●7月14日より東京・BOX東中野で上映(03?5389?6780)
●自主上映の問い合わせ先

マザーランド
電 話 03?3497?0140
FAX 03?3497?0149
http://www.motherland.co.jp/

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