20010425

温暖化防止は地球の問題

なぜ米国は議定書から離脱

大学生 牧田 初美


 「ええっ!」と、声を出しはしなかったものの、「京都議定書・米が事実上の離脱表明」という新聞の大きな見出しを見たとき、私は驚きのあまり、図書館の新聞コーナーで立ち上がってしまいました。そして、一字一句逃さずに各社の記事を読みました。
 米政府は、途上国に削減義務がないことや、米国経済にとってマイナスとなることを離脱表明の理由にあげています。もちろん世界中が驚き(あるいは「やっぱり」と思い)、批判声明が相つぎました。
 すると数日たって米政府は、「温暖化防止そのものに否定的なわけではない。途上国を含む全世界をカバーできて、国民も納得するような新提案をつくる努力をしている」と言いました。私は残念でなりません。たとえ米国がそんな新提案を本当に模索していたとしても、それは今になって言うことではないはずです。
 京都議定書は、四年前の会議で世界各国が妥協に妥協を重ねてつくったものです。米政府が今回の離脱の理由としていることは、すでにその時話し合われたことばかりです。それに四年前、最後まで先進国と途上国との間で議論がこじれた、途上国の自発的取り組みを促す条項を入れるか否かは、米国の譲歩によって削除されることが決まりました。

*    *

 ブッシュ大統領が政権について以来、米政府の他国に対する態度は明らかに強硬なものです。たとえばせっかく韓国をはじめ他の国々と関係を修復し始めたばかりの、微妙なバランスにある朝鮮民主主義人民共和国に対する態度や、台湾への武器輸出をめぐる米中のやりとりなどです。また、もともと仲のよくなかった国々を改めて「ならず者」と呼んでいます。そんなブッシュ政権の姿からは、まわりと仲良くしていこう、よい関係を築いていこうという気がみじんも感じられません。
 そして、今回の京都議定書離脱表明です。欧州連合(EU)は、このことが欧米の外交関係や経済協力にも影響するだろうと批判しています。どうして反感を招くとわかっていてこのような言動をくりかえすのか、理解できません。
 今回のように、米政府がとっぴな発言で世界を慌てさせるという現象は、京都会議でもみられました。当初、EUは二酸化炭素(CO2)排出で一五%の削減目標を打ち出していたのに対して、米国は〇%、日本は五%を主張。 議論は途上国の排出抑制や、日米欧の経済活動や産業の国益絡みの利害も対立して、最終局面までほぼ平行線をたどりました。そして最終日、米は一転して六%削減を提案し、翌日、二〇〇八年から二〇一〇年の間に日米欧がそれぞれ六%、七%、八%の削減目標を受け入れ、京都議定書は採択されたのです。
 米政府のこのような言動は、はじめに他国が到底のめそうもない案を出し、あとでいかにも大きく譲歩したようにみせて他国の歩み寄りを引き出し、交渉を自国により有利な方向へ導くという、米国の交渉上の戦略だと言われました。今回の離脱表明は、同じことを思わせます。

*    *

 EUは、米国の離脱表明に対して、EUだけでも批准する考えを示しています。それは、もう大国の一挙一動に振り回されないぞという、これまでの反省と教訓があるからだと思います。しかし日本政府は、先進国のCO2排出量の三六%を占める米国の参加が非常に重要だとして、米政府に批准を呼びかけています。
 日本政府は先のCOP6(温暖化防止会議)で、米国に同調する姿勢を鮮明にしました。COP6決裂の主な原因は、森林のCO2吸収量を最大限認めようとする日米カナダと、厳しい規制を求めるEUが激しく対立したことでした。排出権取引にしてみても、自国内で努力しようとするEU諸国とは対照的に、日米は途上国での活動で乗り切ろうとしています。しかし、それでは結局のところ世界規模で見たとき、CO2は削減されません。
 日本政府は、米政府に批准を促すのみにとどまらず、とにかく議論を前に進めることを考え、行動に移さなければならないと思います。米政府は、米国の世界経済への影響を考えると、議定書の批准は有効でないといいますが、日米の企業が削減努力を免れるようなことになれば、欧州企業が競争できません。あくまで国内対策に重点的に取り組むべきであり、国内の対策を率先して行っていない国の発言力は薄れるということを忘れてはいけません。
 程度の差こそあれ、温暖化防止にむけた取り組みが自国経済にとって挑戦であることは、どの国も同じです。その点からいうと、米政府が国内でも環境規制を相ついで緩和・撤廃している事実は無視できません。
 米国の言動が世界経済に大きな影響があるのも事実ですが、今この瞬間も着実に進行する温暖化が、すでに島しょ国や沿岸地域など、遠い異国に住む人びとの生活を脅かしていることも事実なのです。もう、議論をむし返している余裕はないのです。

*    *

 先のCOP6で、先進国間の経済利害の対立によって議論が暗礁に乗り上げたとき、海面が一メートル上昇すれば国が水没してしまうというモルジブ政府の人に対して、ある先進国は「移住するほうが安上がりだ」と言いました。「われわれはずっと昔からここに住んでいるんだ」と、モルジブ政府の人は怒りをあらわにしました。
 各国科学者がつくった「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」第二次評価報告書(一九九五年十二月)よると、二一〇〇年には海面水位は十五〜九十五センチ上昇するとされています。
 地球温暖化防止は、地球に住む人間みんなの問題であり、解決に向けた取り組みはみんなで協力し合い、科学的な知見にのっとってなされなければならないはずです。議論の行方が、各国の経済活動に大きく影響するのは確かですが、これは「地球の温暖化を防止するための話し合い」だということを忘れてはいけません。
 米政府は産業界に配慮しているそうですが、だからといって議論を先延ばしにしていれば、百年後には安心して商売もできません。議論の進行を妨げた米政府は、繰り返し非難を浴び、責任も増すことになるでしょう。同じ議論にいつまでも固執せず、とにかく状況を進展させていかなければなりません!