20010415

映画紹介
熊井 啓 監督作品
「日本の黒い夏−冤罪−」

警察とマスコミの体質暴く


 一九九四年に起こった松本サリン事件。この事件の被害者である河野義行さんは、警察とマスコミによって、あたかも犯人のように仕立てあげられていった。事件の真相が明らかにされない中で、私もそのマスコミの報道をうのみにした一人だ。この映画は警察やマスコミの危険な体質と現実を、鋭く暴いた作品である。

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 映画は松本市内の高校の放送部の生徒(遠野凪子)たちが松本サリン事件をテーマにしたドキュメンタリーを撮影するために、信濃テレビを取材するところから始まる。取材に応じた報道部長・笹野(中井貴一)とスタッフたちが事件を振り返っていく…。
 六月の暑い夜、事件が起こった。第一通報者の神部さん(寺尾聡)が、被疑者不詳のまま殺人容疑で家宅捜索を受けた。県警には箝口(かんこう)令がしかれ、マスコミは東京の警察庁から流される情報を裏付け調査もなしに、つぎつぎと報道していった。その第一報は、「神部さんが妻といっしょに庭で農薬の調合をしていた」という、まったくのウソだった。
 妻は意識不明の重体。神部さんももうろうとした意識の中で、事情聴取が進められた。約一カ月後に退院した神部さんには容赦のない尋問が待ちかまえていたが、神部さんは強靱(きょうじん)な精神力で無実を訴えた。マスコミは神部さんが犯人であることを前提とした報道を流し続け、神部さん一家は脅迫におびえる毎日が始まった…。

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 映画に登場する高校生は、「幻滅です。テレビや新聞は本当のことを言っていると信じていたのに。わからないことでも平気で書く。マスコミが冤罪(えんざい)に手を貸したんです」と怒りの声をあげる。
 警察の河野さんに対する取り調べにはウソ発見器も持ち込まれたという。まるで昔の特高警察のような態度で取り調べる警察官。今も変わらぬ警察の実態を映し出している。
 映画のラストでは、事件の当日の現場がリアルに再現される。オウム真理教の犯行によって、なんの罪もない人びとの命がつぎつぎに奪われていくさまは、事件の悲惨さを改めて印象づける。そして、今も意識が回復しない妻の看病を続ける河野さんの心情も細やかに描かれている。
 デタラメな警察情報は誰の手で何のために流されたのか。誰が河野さんを無実の罪におとしいれたのか。この冤罪についての真犯人は、まだ闇(やみ)の中だ。(U)

全国上映中