20010405

ギャンブルが子供の世界を浸食

サッカーくじで1億円?!

海野 ひろし


 黄色に黒でtotoと書かれたのぼり旗が三月から全国で掲げられている。「スポ ーツ振興投票券」という正式名をもつ、サッカーくじ販売店である。
 三月十二日には最高限度額の一億円を当てた人が二人出た。こうなると、チャンスがあるのかもしれないと思うのが人の心理というもので、売上金額は大幅に増えた。
 百円でくじを買えば、最高一億円が当たる。しかし現実には、全試合を当てるためには、たくさんのケースを予想してたくさん買わなければ、当たらないのだ。
 「くじ」とか「振興投票券」などと耳にやさしい言葉を使っているが、競馬や競輪などのギャンブルと同じ、ぬれ手でアワに変わりはない。
 サッカーくじに反対した人の多くが心配したのは、子供たちへの影響である。サッカーは子供たちのファンが多いスポーツだからである。
 実際に店に行くと分かるが、サッカーくじは他のギャンブルとは買い方が違う。店ではマークシート式の用紙を無料で配布する。それに予想を記入し、専用の読みとり機械に入れる時に代金を支払う仕組みだ。
 確かに、サッカーくじは十九歳未満への販売を禁止している。しかし、「家の人に頼まれた」として店に来たら拒むことは難しい。親子そろってのサッカーファンも多いからである。

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 totoという愛称は、イタリア語のトトカルチョ(かけごと)からつけている。
 イタリアは第二次大戦に敗北した翌年、オリンピックへの選手派遣費用をひねりだすために、トトカルチョを始めた。財政難から政府がサッカーでギャンブルを始めるというのは、どこも同じなのである。
 サッカーくじが国会で可決された時、自民党で反対を表明した議員が二人だけいた。田中真紀子と河野洋平の息子、河野太郎である。河野太郎は、その後、湘南ベルマーレの代表となった。ベルマーレが経営難から新会社に経営を移し、地元に顔の利く河野が代表を引き受けたのである。
 ベルマーレの代表となった河野は、文部省にあいさつに出掛けている。サッカーくじの配当を期待しての陳情である。本人は、法案に反対した時とは立場が違うと弁明したが、自民党政治家の信念はこんなものである。

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 来年、韓国と共同開催するサッカーのワールドカップも赤字が確実になってきた。企業からの寄付が期待できないからである。
 日本組織委員会は、試合会場となる自治体すべてに一億円の追加負担を一方的に決めた。自治体は回収できるあてのない巨大なサッカー場を建設した上に、運営費の赤字まで負担させられる。しかも、この一億円で赤字が埋まるとは考えられない。まだまだ負担は増えるだろう。
 こうなるとサッカーくじの売り上げを伸ばす必要が出てくる。切り札は、二十四時間営業のコンビニである。酒やタバコですら、誰にでも販売しているコンビニで、サッカーくじの年齢制限ができるわけがない。
 子供たちの世界に確実にギャンブルが入り込んでいく。大きな問題が起こらないからいいのではなく、問題が起こってからでは遅いのである。