20010315

会社が倒産した!(2)
 「給料10万円で勘弁してくれ」

自宅待機に不安つのる

産廃処理労働者 福田 直二


 債権者集会は平穏に終わり、「事業の継続と会社再建をめざす」(社長談)と新聞地方版は大々的に報じた。
 産業廃棄物の最終処分場は、捨てられるゴミ一トンか一立方メートルにつきいくらと計算して収入を得る。しかし、行政の許認可条件に違反しているとして、会社は十二月から業務停止命令を受けている。ゴミの搬入はストップしたままで、搬入の見通しはまだ立っていない。
 債権者集会が終わると兄さんたちは引き上げ、ようやく職場に落ち着きが出てきた。

*    *    *

 「月末の給料は出るかな」「出ないと家賃が払えない」「年末調整がそろそろ返済されるころだ」「○○さん休んで職安に行ったのかな」。一月末になると仕事中のひそひ帰り際のひそひそ話が活発になる。
 私は、給料はどうしても欲しいが、出ないときはみんな怒りなんらかの騒ぎになるだろうと、賃金が出ない場合のことを考えていた。
 給料日がやってきた。今日は給料日だからといって、四時過ぎには仕事を片づけはじめる主任。みんなも期待して早々と作業を終えた。
 五時過ぎ、副社長は「有力な協力者が裏切ったので弁護士と相談している」「みんなにはすまないが今日は一律十万円で勘弁してくれ」「二月十日までには残りを支払う」といって、一人ひとりに十万円の入った封筒を配り始める。
 中には、「ありがとうございます」と頭を下げて受け取るものもいる(給料は月末に現金で手渡すことになっている)。私の予想に反して、誰も何も言わない。「数日間事業所を閉めるかも」と最後に副社長がひとこと。
 翌日の午後、「債権者集会で年末調整は従業員から借用していると報告があったらしい」「事業所を閉鎖してしばらく自宅待機」などのうわさが流れる。「自宅待機期間の金はどうなるのかな」など、みんなに不安が広がる。
 夕方には、退職した人が給料を取りに来たが、十万円しかないうえに「離職票」がもらえなかったという話だった。「なぜ離職票が出せないのか!」。声を荒らげて叫ぶ人も出る(いずれも勤務時間中にドラム缶のたき火を囲んでの話)。

*    *    *

 「明日から自宅待機というが何も説明はないのか」とKさん。「何の説明もなかったです」とそばにいた人がこたえる。そこに出てきた副社長に、「きちんと説明して下さい」とせまるKさん。
 「有力な協力者に代表権を行使されたので、明日から八日まで自宅待機してくれ」と副社長。私は「自宅待機中の給料はどうなるのですか」質問すると、「公休扱いにする」と副社長。そばで「会社が自宅待機といっているのだから、金が出るのが当たり前」「黙っていろ」と私をバカ呼ばわりする管理職。
 帰り際のひそひそ話の中に、「管理職はバカ呼ばわりしたが、自宅待機のことを聞いてくれてよかった」と私につぶやく人がいた。また管理職に注目されたが、発言してよかった。
 自宅待機中でも本社の事務や営業、事業所の運転手などは通常勤務。指名で呼び出された私たちは半日、別のグループは二日間仕事をした。
* * *
急 きょ、十日に全員本社への集合がかかった。
 今までの社長が、社長が交代したことや十五日には必ず給料を出すことなどを全社員の前で説明。この日は「新社長との関係は」「本当に給料は出るのか」「離職票は出すのか」「以降の事業の見通しは」など質問が出て、少しにぎやかだった。
 私も、「年末調整はいつ出るのですか」と質問。社長は「それもいっしょに十五日にお返しします」。すでに会社が年末調整を使い込んでいることを察知している私は、再度「年末調整は年末か年始には事務処理がすんでいるはず。十五日といわず、今日にでも返せないのですか」と食い下がる。社長たちは動揺し、「今日は金を持ってきていない、週明けには渡せるようにする」と返事した。結局、年末調整は週明けに返ってきた。
 約束の十五日、今度は本社にいる副社長が現れて「まことに申し訳ない、二十日まで待ってもらえないか」「信用してもらえないかもしれないが、二十日までには、借金できる見通しができたので‥」。
 こうまでいわれても、誰も何も言わない。あきらめているのか、声に出せないのか。休憩時間には労働組合でもあればという声が出るが、具体的にはならない。一月からすでに十三人が退職していった。
 暴力団と対立することを前提にした労組結成には、あまりに時間がない。こんなこともあるかと、年末に忘年会をやったがみんなの気持ちがまだ分からない(忘年会すら会社の妨害を受けた。長くいる人に聞くと忘年会をやったのは数年ぶりという)。
 自宅待機が延べ十日にもなると、「公休にする」という約束に、不安を感じるようになってきた。いろいろ調べてみると、働いたというはっきりとした証拠をもっていないと、争いになったとき賃金は出ないことが分かった。
 そんなことを二人の先輩に話すと、一人の先輩がタイムカードに出勤を記録せよと社長に迫まり、社長も納得した。あとは二月末の給料日を待つだけである(つづく)