20010305

インタビュー カメラマンから監督へ

「対等につき合う」がモットー

「こどものそら」映画監督 小林 茂さん


 学童保育所のいきいきとした子供たちの姿を描いた「こどものそら」が完成した。東京をはじめ各所で上映される予定だ。映画製作の経過や映画に込めたメッセージを、監督の小林茂さんに聞いた。小林監督は、故・柳澤寿男監督の助監督をへて、「阿賀に生きる」の撮影で日本映画撮影監督協会第一回JSC賞受賞。過疎の地域医療をテーマにした「農民とともに」「地域をつむぐ」などを撮影している。

 映画をとりながら、子供たちの表情をしみじみ眺める体験ができたことが、私自身も非常に楽しかったですね。
 子供たちはじつに自然な形で映っています。私のモットーは子供たちと「対等につき合う」ということです。その姿勢を堅持すれば子供たちも応えてくれる。カメラを回している私は、鬼のような顔をしていると思うんですが、真剣さが伝わるんでしょうね。大人が真剣になれば、子供もきちんと受け入れてくれます。
 ハプニングもありましたが、そういうものが劇映画にないリアルタイムのおもしろさといえます。
 作品をつくると、こうすればよかったという反省が出てきて、次の作品がつくりたくなる。「放課後」「自転車」では描けなかったお父さん、お母さんのふんばりや、子供たちをとりまく社会状況をとりたくなった。でも、それだけでつくると堅苦しい映画になってしまうので、雪合戦をたての軸にして、三作目をとりました。
 私はずっとカメラマンとして生きてきましたので、今回の映画はカメラマンの監督作品だという楽しさが出ているといいと思うんですよ。つまり、カメラマンはカメラをのぞいて回しているときが一番楽しい。そういう楽しさが伝わってくれればいいなと思っています。

社会を変える宝の子供

 この映画に登場している「つばさクラブ」には、障害をもつ子供たちも通っています。子供たちは、そういうハンディのある子供たちも受け入れることができるということを、この映画の中で伝えていると思います。
 障害をもつ子供のお母さんがこの映画を見て、「ほんとにこういう場所がほしい。日本に一つこういう場所があると思うだけでも、私はうれしい」と言われました。障害をもつ人をかかえた家族は、社会的に非常に苦しい立場を強いられ、それが特に母親の背中にどっぷりと背負わされているのが現状です。
 この映画を見て、肩の荷を下ろしてほしい。ハンディをもった子供たちが実は社会を変えていく宝の子供であるという、僕のメッセージがここに入っています。障害があるなしの垣根を超えた人間同士のむすびつきというのが、きっと新しい価値観をつくっていく原動力になっていくと思うんです。
 今の子供社会は負のイメージで語られることが多い。でも、子供社会は大人社会の反映です。大人たちは昔だったらみんなで首切りに反対したのに、リストラという言葉にすりかわったとたんに認めてしまう。つまり、誰かを切り捨てていくことによって、その会社が立ち直っていくイメージです。家族すらもいっしょにいる時間がない、社会構造になってしまった。
 そういう中で見た学童クラブに、親たちや地域を巻き込んだ新しいコミュニティづくりの雰囲気を感じました。

映画づくりはおもしろい

 この映画は自主製作です。精神的にも経済的にも非常に苦しい作業でしたが、「放課後」製作委員会の皆さんと、カンパを集めながらつくりあげたものです。
 映画づくりも稲と同じように種を植え、育ち、実るという経過をたどります。稲が育つためには大地と、太陽や水という自然が必要です。自分が稲を育てたんだと考えてしまうと、つまらない映画になる。また、人びとに感動してもらうような映画には、かならず偶然とも思えるような、奇跡のようなことが入り込んでくると思うんです。
 お客さんが太陽だったり、カンパをくれる人が土だったり、とにかく映画は一人ではできないですね。だから、逆におもしろさがある。最初からいろいろな人の協力をあおいでいかなければいけない。そういうからくりのおもしろさがありますね。

上映問い合わせ先
〒062-0054
札幌市豊平区月寒東四条十八丁目十−四十七
つばさクラブ内 映画「放課後」製作委員会(吉田)
電話011(855)7388


映画紹介 小林茂第1回監督作品

こどものそら

学童保育に子供パワーが全開

 この映画は、「放課後」(20分)「自転車」(30分)「雪合戦」(58分)という3本の作品で構成されている。いずれも、札幌にある学童保育所「つばさクラブ」の生活の一コマを映したものだ。この学童には1年生から6年生が通っている。障害のある子も通ってくるが、彼らは特別扱いされない。みんな対等だ。
 「放課後」では学童保育所の中で、ひたすら遊ぶ子供たちのようすが映し出される。狭いスペースにほっぺを真っ赤にしてひしめきあう子供たち。学童ってどこでも同じなんだなと、なつかしくなる。
 「自転車」では、子供たちが見せるがんばりに圧倒される。つばさクラブでは6年生の子供たちが自転車にテントを積んで、1週間の自転車旅行に出かける。毎年リレーしながら、北海道1周しようというものだ。道路を一列に並んで自転車で疾走する子供たち。雨でびしょぬれになったり、真っ暗なトンネルを走ったり、転倒したり、トラブルが続く。そして全員がゴールにたどりつく。車といっしょに道路を走りぬける、緊張感とスピード感にドキドキさせられる。 
 「雪合戦」は、冬の北海道の青い空の下で、子供と指導員たちが雪合戦に興じるようすをそのまま映したものだ。バザーに取り組む親たちや、これから学童をつくろうとする親たちの姿も追う‥‥。
      *       *       *       *
 だれもが通過する子供時代。振り返ってみればあっという間に過ぎ去る短い時期だけど、この年代のの放つ生命力の力強さとおおらかさを、理屈でなく、刺激として見せつけてくれる映画だ。映像の中に引きずりこまれ、自分がその場にいるような一体感を覚える。映画をみながら、いつのまにか子供のころの自分に帰っていたのかもしれない。
 「子供ってすばらしいな」、「学童保育ってこんなに豊かなところだったんだ」。そんなことを再認識させられる、わくわくする映画だ。(U)

3月10日〜30日東京・BOX東中野で上映(電話03−5389−6780)