20010115

「郡上一揆」

神山 征二郎・監督作品

抑圧と闘う農民魂描く


 江戸時代には三千二百件の百姓一揆(いっき)が起こった。一七五四年から六〇年にかけて、現在の岐阜県郡上(ぐじょう)郡で闘われた百姓一揆は、江戸幕府をゆさぶり、ついには藩を取りつぶしに追い込む闘いとなった。しかし、その中で多くの農民たちが獄門・死罪となった。
 この映画は、二百五十年前の農民の勇気と正義を、スクリーンにいきいきとよみがえらせた。時代劇のイメージを一新する、力強い作品だ。

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 郡上の農民たちには重い税がかけられていた。税を払うために借金し、その金が返せずに先祖伝来の田んぼを失う農民もいた。そんな中で、藩主は税の取り方をこれまでの定額制から、コメの出来高によって年貢を決める「検見(けみ)取り」と呼ばれる方法に切り替えると通達してきた。検見取りになれば、藩主のさじ加減一つでさらに重税となる。
 これに怒った郡上の百姓たちは、村々に触れ回り、竹やりをとって城に押し寄せた。恐れをなした家老は、「検見取りは実施しない」とのお墨付きを百姓たちに渡した。
 熾烈(しれつ)な闘いはここから始まる。作戦を変えた藩は、幕府からの命令として検見取りを実施しようと画策した。幕府役人に呼び出された庄屋たちは、検見取りを了解してしまったのだ。
 村々から集まった百姓たちは、郡上百姓の総意として検見取りに反対することを決め、連判状をつくり団結を固めた。そして、江戸にいる藩主に直接訴えるために、代表団を派遣することを決めた。
 定次郎(緒方直人)は厳格な父(加藤剛)に、「村のために役立つ人間になれ」と育てられていた。妻(岩崎ひろみ)と幼い娘を残して、仲間たちと江戸に旅立った。
 しかし、藩主は聞き入れようとしない。定次郎たちは幕府老中に直訴することを決めた。直訴は死罪である。定次郎たちは死を覚悟して、駕篭訴(かごそ)を決行した…。
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 登場する人物は実在で、物語は史実に基づいてつくられている。農民たちは教養もあり、村々の連絡体制をつくり、藩や幕府の動向もしっかりつかんだ上で、組織的に行動していることがわかる。
 定次郎は奉行所で拷問を受けながらも「百姓はお上も恐れない。百姓が恐れるのはお天とう様だけだ」と敢然と闘う。しかし、闘いの中で脱落していく者、仲間を裏切って敵につく者も出てくる。また、人間扱いされない水飲み百姓の憤りなど、農民側の内部の描写もていねいだ。
 この映画は岐阜県民の大きなバックアップで完成された。地元から三千五百人がエキストラとして出演している。百姓たちが旗と竹やりをもって城に押し掛けるシーン、石つぶてと竹やりで武士と戦うシーンは、最近の日本映画にない熱気と迫力を感じる。また、四季おりおりの水田風景も美しい。
 命がけで抑圧と闘う農民の姿は崇高であり、私たちに大きな感動を与える。郡上一揆から二百五十年が過ぎ、人間社会の姿は大きく変わった。しかし、時の権力者が手を変え品を変え、民を搾りとろうとする政治の本質は何一つ変わっていない。
 映画館は超満員だった。このような作品が、民衆に共感をよぶ時代となった。(U)

 東京・新宿東映パラス2で上映中/神奈川・横浜西口名画座で一月二十七日から上映など、各地で上映