20001205


アジアに生きる若者たち

アジアのシャワー浴びて変身!(12)

牟田口 雄彦
 海援隊(海外展開企業等を支援するネットワーク組織隊)


 IT(情報技術)革命が進展している。このことは、アジアも例外ではない。ITは安い接続環境が存在さえすれば、どこでもビジネスができる。以前紹介した台湾のホームページは、日本の三分の一の製作価格、そして今回の上海の企業では、日本の五分の一の製作コストを実現している。ここには、日本人が一人しかいない。いや一人でも珍しい、本当はまったくいない企業の方が安くつくのだ。大卒の技術をもった社員が七万円で雇える。そして、よく働いてくれる。
 小笠原徹氏(二十九歳)は、日本の会社と上海の企業をつなぐパイプ役として配置されている。今まで紹介してきたシリーズでは、独立派ではなく日本からの派遣社員の初めての紹介である。
 彼は、赴任して一年、やっと上海の生活にも慣れてきた。慣れてきたと同時に、最近、なぜ自分がここにいるのか、疑問に思いはじめている。というのは、彼の勤める会社が、上海に設立されたのが三年前であった。日本の景観シミュレーションソフト製作会社の合弁企業としてであった。
 そのころは、日中のパイプ役として自分の前任者が活躍する余地が十分あった。しかし、今や中国人が日本で研修を受けて日本語が上達して帰国してくる。したがって、コストの高い日本人の自分がいる必要がなくなってきている。日本の本社が、今のところ日本人がいてくれた方が助かるという理由で残されているだけである。
 ここへ来て驚いたのは、上海の人は、取引が出来ればどこの国の人とでもつきあうということであった。つまり、グローバルなマーケットを常に自然に意識しているということである。しかし、日系企業は、日本市場をみて日本人とだけビジネスをしているような気がしている。これでは、日本は、世界の田舎になるのではないかと小笠原さんは思いはじめている。
 たとえば、上海の服飾メーカーは、かつては、日本の下請け製造会社だったものが、今やミラノ、パリと並ぶような上海ファッションを生み出そうとしていることにも表れている。
 IT産業は、特にグローバルなビジネスと思うが、日本の企業はたとえ上場や店頭公開していても、「楽天」をはじめすべて国内マーケットしかみていないと思える。ただ、Iモードだけは、期待が大であるが、いつも、日本は、中国での国際競争入札には負けている。このIモードや新幹線もそうではないかと思っている。
 今や、国際的なビジネスマーケットを創造できる構想力と人脈が必要とされていると、小笠原さんは感じている。いま、彼は日本への帰国命令が出ても、上海に残って中国のマーケット開拓を目指そうかとも考えはじめている。それは、大きな世界のマーケットで勝負してみたいと思いはじめているからである。
 小笠原さんのような派遣社員も、アジアのシャワーを浴びると独立派に変身してしまうのはなぜだろうと、最後に考えさせられた。    (完)

 「アジアに生きる若者たち」は今回で終了となります。一年間にわたりご愛読ありがとうございました。なお、引き続き海援隊の執筆により、新シリーズ「アジアの街角から」を連載する予定です。ご期待ください。


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